鉄と鉄欠乏性貧血

血液中の赤血球の中には、体内の各組織に酸素を供給するという大切な役割を担っている物質が存在します。それがヘモグロビンと呼ばれるもので、これは、ミネラルの1つである鉄によってつくられているのです。この鉄が、体の中で足りなくなると、いわゆる鉄欠乏性貧血と呼ばれる病気にかかってしまうのですが、この病気は、数ある貧血の種類のうち、9割以上を占めるとされ、特に若い女性の間では4人に1人が、この病気になっているとさえいわれています。そうした現状を踏まえ、今回は私たちが生きていく上で欠かせない栄養素・鉄の働きと、その不足によって起こる鉄欠乏性貧血の発症のメカニズムなどにスポットを当ててみたいと思います。

ヘモグロビンの生成等に欠かせない鉄

鉄の働き鉄というものは普通、食物から摂取するもの。そして、その食べ物から得られた鉄は、主に十二指腸で吸収され、そのあと骨髄へ運ばれ、血液を構成する細胞成分の1つである赤血球の中の血色素(ヘモグロビン)をつくるのです。
こうしてつくられたヘモグロビンは、肺の中で酸素と結合する形で血液中に酸素を取り入れ、各組織へ運搬し、受け取った組織は、これをエネルギー源として利用しているわけです。また、利用されたあとは炭酸ガスが生じるのですが、それを肺へ運ぶのもヘモグロビンの役目。
こうした一連の働きは“ガス交換”と呼ばれ、人間が生きていくためには欠かせないもの。となれば、この重要な働きを担うヘモグロビンは鉄からつくられるのですから、私たちにとって鉄というものは、なくてはならないものだということがわかります。

鉄欠乏性貧血は体内が酸欠になった状態

ところで私たち成人の体内には、男性で3〜3.5g、女性では2〜2.5gの鉄がありますが、そのうちの約60%は、ヘモグロビンをつくるために使われる鉄として血液中に存在しています。
では、残り約40%の鉄は一体、どこにあるのでしょうか。それは、ヘモグロビンをつくるのに当面は必要でないことから、肝臓や脾臓などに“貯蔵鉄”として蓄えられているのです。
何らかの理由でヘモグロビンをつくる鉄が不足すると、まずこの貯蔵鉄が使われ始めます。それでも足りない時は“血清中の鉄”が使われ、さらに足りない場合は“組織鉄”までも使われるようになります。
このように体内の鉄が不足するということは、すなわちヘモグロビンをつくる材料が減ってしまうということですから当然、ヘモグロビンはうまくつくられなくなり、その量も減少していきます。そうなると、全身の組織や臓器に酸素が行き渡らなくなり、体内がいわば酸欠状態になってしまいます。これが、いわゆる鉄欠乏性貧血という病気なのです。
このほか、ヘモグロビンが減少する理由としては●胃潰瘍や痔核、あるいは女性の場合には月経による出血●赤血球やヘモグロビンをつくる機能が満足に働かない●赤血球やヘモグロビンが壊れやすい●ガンや肝臓病などで造血作用が妨げられる−などが挙げられます。


閉経前の女性や妊婦などは特に注意

こんな場合は鉄不足になりがち:妊娠中、生理中、無理なダイエット、授乳期一般に、鉄欠乏性貧血は、男性よりも女性に多い病気ですが、それはどうしてなのでしょうか。
そもそも鉄というものは吸収率が悪く、食物中に含まれる鉄のうちの約8〜10%ぐらいしか1日に吸収されません。
一方、尿や便、汗などによって体外に排出される鉄の量も少なく、1日に約1mg。排出量がこんなにも少ないのは鉄が体内で再利用されているから。つまり、老化した赤血球からは、他の成分が分解されて排出されるのに対し、鉄だけは遊離してほぼ完全に再利用されているのです。
したがって●毎日の食生活における鉄の摂取量が極端に不足している●月経過多や痔核、あるいは子宮筋腫などによって慢性的に出血が起こっている●胃の手術をしたために、十二指腸が正常に働かず、鉄がうまく吸収されない−などといったことがない限り、まず鉄欠乏性貧血になることはあり得ません。
ところが女性の場合、閉経前だと月に1度は必ず生理によって出血が起きるため、それに伴ってヘモグロビンの生成に使われる鉄も失われてしまいます。その量は1日平均で1.5〜2mgといわれており、男性のおよそ2倍。
加えて、妊娠時には、母体の鉄は胎盤を通じて胎児へ移行し、おなかの中の赤ちゃんを育てるために使われますし、母乳の中にも鉄は含まれているので、授乳によっても鉄は失われてしまいます。
その上、先程も出てきた貯蔵鉄の量が、男性は約1gなのに対し、女性は0.3〜0.5gとかなり少なく、以上のようなことから女性は鉄欠乏性貧血になりやすいのです。
また、ここ数年の間、特に10歳代後半から20歳代の若い女性に鉄欠乏性貧血が多く見られ、その数は4人に1人とも、10人に1人ともいわれています。その理由の1つとして指摘されているのが無理なダイエット。つまり、やせたいがために、肉は食べず、野菜ばかり食べるといったアンバランスな食生活がつづき、その結果、鉄不足の状態に陥ってしまうケースが女性に多いというわけです。
ただし、これと似たようなことは男性にも当てはまります。例えば、毎朝、朝食を摂らなかったり、あるいはインスタント食品ばかり食べているようだと、鉄不足を招きやすいといえます。したがって、毎日の規則正しい食生活を通じ、鉄を摂取することは男女を問わず、とても大切なことなのです。
このほか、激しい運動をした時に消化器官から出血してヘモグロビンが尿と一緒に体外ヘ排泄されるために鉄欠乏性貧血を起こす場合があります。このようなケースは、特にスポーツ選手に見られるのですが、中でも女性選手は、ただでさえ生理によって出血が起きることから、少量の鉄剤を毎日服んで鉄の不足を補っている場合が多いようです。

主な貧血の種類貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビンの量が減少した状態のことを指しますが、一口に貧血といっても、その種類はさまざまです。
以下、主な貧血を列挙してみると・・・

■鉄欠乏性貧血
体内に鉄が不足したために、血液中のヘモグロビンが減少して起こるもので、貧血のうち9割以上を占める。
■溶血性貧血
骨髄でつくられる赤血球には、人間と同じように寿命があって、その期間は100〜120日間。それを過ぎると、赤血球は肝臓や脾臓で破壊されてしまう。しかし、壊れてしまっても、骨髄が活発に働いて不足した赤血球を補っていれば問題はないのだが、破壊される速度がだんだん速くなり、赤血球の不足を補い切れなくなってしまうと、この貧血が起こる。
■巨赤芽球性貧血
赤血球の生成に欠かせないビタミンB12や葉酸が不足したために、赤血球になる前の赤芽球と呼ばれる細胞が巨大化した巨赤芽球が現われた状態をいう。
■再生不良貧血
骨髄で赤血球をつくる機能が充分に働かなくなって起こる貧血。この場合、通常は赤血球だけでなく、白血球や血小板も減少する。












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