アップルが健康管理から「医療」へ踏み込む理由

アップルの最高執行責任者でApple Watchの開発を指揮、現在Apple Watchのエンジニアリングチームも監督しているジェフ・ウィリアムス氏はそう話した。

テクノロジーデバイスによる、ヒトの健康に対する関与にはさまざまなレベルがある。ウェルネス、ヘルスケア、メディカル。それぞれの領域に境目はなく連続したものだ。ヘルスケア向けに開発されたデバイスが医療に役立つ情報を提供することもあれば、本来は医療向けに開発されたデバイスが日常の健康に役立つこともある。

「転倒・落下検出機能」で命が救われた事例

アップルは昨年、心電図を計測する機能をApple Watchに盛り込んでいるが、それ以前から心拍の異常を検出する機能、あるいは転倒や落下の検出機能を盛り込むなど、積極的にApple Watchを、健康やケガのリスクから守るために活用しようとしている。

実際、Apple Watch series 4以降に搭載されている転倒・落下検出機能は、その通知をオンにしておくことで命が救われた事例がいくつも報告されている(年齢が65歳以上で自動的にオンになるが、それ以下の場合は自分でオンにする必要がある)。

今年のApple Watch向け基本ソフトwatchOS 6には、月経周期や妊娠可能期間の予測を行うアプリや、周囲の騒音レベルを計測して難聴など健康への影響が考えられる場合に警告するアプリなどが盛り込まれている。

こうした機能は、必ずしもアップルだけが持つ技術を使ったものではない。例えば、心電を計測する機能はメディアテックなどが提供するデバイスでも利用が可能だ。しかし、それを医療目的で利用するには国ごとの規制に沿った手続きも必要となる。

もちろん健康に深く関わる情報になるほど、得られるデータに対してはプライバシーに配慮した運用も求められるだろう。ウェルネスの領域からヘルスケア、メディカルと、より重要度が増すたびに、メーカーには大きな責任が伴う。

それゆえにアップルが、スマートウォッチというジャンルを通じてメディカル領域に踏み込もうとしている理由に興味があった。

「最初のApple Watchは、日々の活動を記録するだけの簡単な情報しか記録できませんでした。これは“ウェルネス”の領域です。われわれがやりたかったのは、人々により活動的になってもらうことでした。しかし世代を重ねるにつれ、ヘルスケアの領域をカバーするようになり、現在はメディカルの業界と結びつくようになっています。

しかし、こうした流れを最初から予測していたわけでありません。Apple Watchのユーザーがくれた手紙が、自分たちの製品により大きな可能性があると気づかせてくれたのです」(ウィリアム氏)

アップルが提案した3つのアクティビティリングを完成させるという、当初は遊びの提案が、「体重が減った」「より活動的になった」という手紙から、よりモチベーションを高めるアイデアの実装に注力するように。また心拍数の異常を感じ、Apple Watchでその数字を確認したうえで医療機関に連絡したことで命が助かったという手紙もあった。

「命が助かった、標準体重を取り戻して人生が変わった。そういった手紙を受け取り、ヒトの命に関わる情報が得られるデバイスとしてのApple Watchに、自分たちが想像していなかった大きな可能性を感じました」とウィリアムス氏は話す。

スマートウォッチ市場全体の51%を販売

Apple Watchは、アクティビティトラッカーと呼ばれるスポーツ計測用や健康管理用のバンド、あるいは他社のスマートウォッチよりも遅れて登場した製品だ。ライバル製品でも、同じように検出できるだろう。

しかし初代モデルでは800万本、2代目は1300万本以上を販売したと言われる。調査会社NPDによると、2018年トータルの実績では2250万本を販売。これはスマートウォッチ市場全体の51%に相当する。

毎日使う日常的な道具としてApple Watchが多くのユーザーを獲得したことで、スマートウォッチというジャンルの製品の可能性が開けたのだ。

“可能性が見えた”ことでアップルが取り組んだのは、大学病院や公的研究機関などとの協業である。アップルはユーザーのプラバシー情報を自社では保持しない方針を徹底させている。Apple Watchで得た情報はアップルには送信しないが、本人が望むのであれば、健康に役立つ情報として研究機関にデータを提供し、より役立つ機能へとつなげていくこともできる。

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