「ネックスピーカー」とは
首にかけて利用する「ネックスピーカー」という製品を定義すると、首にかけて聴くコンパクトなスピーカーということになるが、「ワイヤレス」も要件に加えていいだろう。映画を鑑賞するにしてもゲームを楽しむにしても、テレビと有線接続すればよさそうなものだが、身につけて使うウェアラブルスピーカーの一形態として注目を集めた経緯もあり、スマートフォンなどテレビ以外の機器と組み合わせて使えないことには価値が下がる。
我が身を振り返ってみても、家族に占拠された大型テレビを諦めタブレットでNetflixを見ることは日常だし、そのタブレット(iPad Pro)にイヤホンジャックがないとなれば、ワイヤレス対応のネックスピーカーでなければ始まらない。かといってワイヤレスでは遅延による映像とのズレが生じがちなため、アクション映画のようなコンテンツ(爆発音と映像がズレていたら興醒めだ)は実際のところどうか、という話になるわけだ。
いっぽう、ネックスピーカーだけの強みもある。肩・首回りと直に触れる構造をうまく使えば、”体で感じる”サウンドを実現できるのだ。かつてパイオニアのボディソニック製品(重低音を振動で伝える座布団型の音響機器)を腰に当てて「ランボー・怒りの脱出」などアクション映画を楽しんでいた身としては、ネックスピーカーがその後継になってくれるのでは、とどうしても期待してしまう。
今回発表されたシャープの「AN-SX7A」は、前述した定義/期待に応えてくれそうな特長を備えるネックスピーカーだ。ワイヤレスによる遅延の部分は、低レイテンシーを誇るコーデック「aptX Low Latency(LL)」の採用によってカバー。”体で感じる”部分は、バスレフ型構造とパッシブラジエーター型振動ユニットにより実現するという。これは実際に試さなければ気が収まらない。
新しい振動機構を採用したシャープのネックスピーカー「AN-SX7A」をさっそく試してみた
新しい振動機構を採用したシャープのネックスピーカー「AN-SX7A」をさっそく試してみた
「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」が生み出す振動
AN-SX7Aは、Uの字の左右先端にフルレンジドライバーを各1基搭載し、その後方に振動ユニットを配する構造のネックスピーカー。実用最大出力2.4W(1.2W+1.2W)の2チャンネルで、入力はBluetoothのみ。付属のBluetoothトランスミッターには、光デジタル端子×1基と3.5mm端子×1基を搭載、テレビなどの音声を入力しAN-SX7A本体へ送信する仕組みだ。もちろん、スマートフォン/タブレットなどBluetooth送信機能を持つデバイスと直接接続してもいい。
前方から見たAN-SX7A。立体的なフォルムだ
前方から見たAN-SX7A。立体的なフォルムだ
本体サイズは227(幅)×46(高さ)×181(奥行)mmという大きさで、重量は約280g。左右先端に実測約3cmのドライバーを積むためか、初見ではやや大ぶりな印象を受けたが、首にかけてしまえば視界から消える。左右の鎖骨の付け根あたりに重みは感じるものの、よほど胸元が開いた服でもないかぎり布地の上に覆い被さる形になるので、ベタつくようなことはない。
AN-SX7Aを装着したところ
AN-SX7Aを装着したところ
左右先端に直径3cmほどのフルレンジドライバーを搭載する
左右先端に直径3cmほどのフルレンジドライバーを搭載する
手始めにiPhone Xとのペアリングを試みる。ボイスは「Paired, Connected」などと英語で味気ないが、世界展開を図る製品とあればやむなしか。ただし、電源をオンしたとき「Power On, Baterry High」とバッテリー残量を教えてくれる点はうれしい。
Spotifyで音楽を再生してみると、自分のアゴ先あたりにボーカルが定位する。視線を下に落とすと、手にしたiPhone Xのあたりから声が出ているような感じだ。真正面を見ているときは、やや違和感を覚えるものの、ノートPCで作業しているときは視線を斜め下へ落とすためか、むしろちょうどいい。
Bluetooth対応スマートフォンでももちろん楽しめる(画面はiPhone)
Bluetooth対応スマートフォンでももちろん楽しめる(画面はiPhone)
MacBook Airとペアリングしたところ。AACまでの対応となるiOSと異なり、こちらはaptXで接続されていることがわかる
音はクリアで、透明感ある中高域が心地いい。音量を上げていくと、高さ方向のチューニングが施されているのか、目の前にサウンドステージが現れるような印象を受けるところがおもしろい。それだけにライブ音源は好適で、イヤホン/ヘッドホンにはない音楽の愉しみ方ができる。
圧倒されたのは低域、特にベースの音だ。弦に指が触れるたび、サステインが伸びるたびに振動が伝わり、グルーヴ感が増していく。ドン、と踏み込むたびに振動が発生するバスドラもあわせ、リズム隊の仕事ぶりを体で感じるのは新鮮。それだけに音楽のジャンルは選ぶが、ジャズ、ロック系であれば聴き慣れた音源も普段と違って響く。
その振動を伝えるのが、シャープ独自開発の「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」。バスレフダクトの役割を果たすチューブがここを通ることで、蛇腹構造の振動ユニットが大きく伸縮、振動をつくりだすという。60Hz付近で振動が最大となるよう設計されているそうで、ベースやバスドラが前述したような印象になるのも納得だ。
アクション映画は大迫力、タブレットでも楽しめる
テレビでも検証してみた。光デジタルケーブルで付属のBluetoothトランスミッターと接続し(側面のスイッチでアナログ3.5mm端子と切り替え可能)、テレビの空きUSBポートからUSB micro-Bケーブルで電源を調達すれば準備は完了、あとはペアリングを行うだけ。トランスミッター側面にあるペアリングボタンを長押ししたあと、AN-SX7A本体のペアリングボタンを押して待てば準備は完了だ。なお、トランスミッターはAN-SX7A専用で、他の機器とはペアリングできない。
視聴コンテンツには、テレビ内蔵のNetflixアプリを利用した。最初にチェックしたのは、王道のアクション映画「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」。サラウンドではないが、2chとは思えないほどの音場感があることにまず驚く。冒頭14分あたり、列車内での乱闘シーンでは、女性の動きとパンチが当たる音がシンクロしているし、聴こえてくるセリフと口もとの動きもほぼ違和感ない。低レイテンシーを強みとするaptX-LL採用の効果か、リップシンクを調整する必要はなさそうだ。デジタル音声の出力タイミングを調整できるテレビであれば、よりレイテンシーの心配は減るだろう。
音の迫力という点では、かなりいい線を行っている。音量を最大近くまで上げれば振動量が増え、爆発や撃ち合いのシーンは大迫力になる。「ダンケルク」でドイツ軍の飛行機が桟橋を爆撃するシーンでは、爆弾が落ちるたびにドーンというよりズドーンという音が体に響く。ACOUSTIC VIBRATION SYSTEMのレスポンスはすばやく、効果的だ。爆弾が炸裂したあとも地鳴りのように振動は続くが、これは特定の周波数帯に反応する仕組みのためだろう(このシーンでは低い音が鳴り続けている)。
気になった点といえば、そのACOUSTIC VIBRATION SYSTEMを完全オフにできないことだ。右側面にある再生ボタンと「-」ボタンを長押しすると、モード1(標準)とモード2(映画や音楽)、モード3(人物の声が聞きやすい)を順に切り替えることができるのだが、振動はオフにできない。「ラ・ラ・ランド」の夕暮れの丘で踊るシーンを大きめの音で楽しもうとしたところ、肩に響く振動が気になってしまい、音量を下げざるをえなかったのは残念だ。
タブレット(iPad Pro)でもNetflixを再生してみた。専用トランスミッターを使わず直接iPad Proと通信することになるため、コーデックはaptX LLよりレイテンシーが大きいAACとなるが、結論からいえばこちらもリップシンクはほぼ気にならなかった。「ゴースト・プロトコル」も「ダンケルク」も、テレビのときと印象は大きく変わらない。Netflixアプリ側で映像と音声のタイミングを調整している可能性もあるが、タブレットでもAN-SX7Aを堪能できることは間違いない。