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仏教

輪転生聯想法 ― Wheel of Rebirth Meditation ―

 

輪転生聯想法 ―

Wheel of Rebirth Meditation

― Awakening of the Morning Star

胸の星が ひとつ燃え
闇の底で 雷は息づく
目の奥に 銀の火が走り
魂の記憶が 目覚めていく
On avocya beiroshanow
makabodara mani handoma jinbara
harabaritaya un”

脳よ 宇宙を映せ
視床の祭壇に 光を咲かせ
我が身は祈りの電流
明星よ いま我の中に輝け
On avocya beiroshanow
makabodara mani handoma jinbara
harabaritaya un”

The star within my chest ignites,
Thunder breathes beneath the dark,
A silver flame runs through my eyes,
And the memory of my soul awakes.
On avocya beiroshanow
makabodara mani handoma jinbara
harabaritaya un

O brain, reflect the universe,
Let light bloom on the altar of the thalamus,
My being is a current of prayer,
O Morning Star, shine within me now.

On avocya beiroshanow
makabodara mani handoma jinbara
harabaritaya un

輪転生联想法

輪転生联想法

輪転生联想法

それは、ほぼ一〇〇日目、私の法のシステムでいって百度目のトレーニ ・ングのときであった。真言宗に伝わる求聞持法の九種の印明、それに、古代ヨーガに伝わる特殊な呼吸法、古代ヨーガの秘法から私が創案した特殊な手印とポーズ、この三つによるトレーニングで、私のからだと大脳皮質と駆舗は、微妙な変化をおこしつつあることが感じられていた。チャクラの開発も順調にすすんでいた。機が熟しつつあることを、私の六感は感じていた。

夜明け、

まどろんだような感じであった。しかし、ねむりではなかった。しびれの感覚であった。かるい失心、めまいに似ていた。忘我の一瞬であった。 その刹那、

「ああッ!」

と私は苦痛の叫びをあげていた。脳髄の一角に電流がながれた感覚が走った。落雷があったと感じた。目の前を紫電が走った、つぎの瞬間、眼前でフラッシュをたかれたように、私の視野は真っ暗になった。失明!
という考えが、チラリと脳裡をよこぎった。と、そのときであった。頭の内奥、深部に、ポッカリとあかりがともったのだ。そして、それは、私の脈擦とおなじリズムで、しずかに、しずかにまたたきはじめた。ちょうど、 この修法をはじめる数十日まえ、山にこもって見つめたあのときの暁けの明星のように――それはつめたく、黄ばんだ白さでまたたいた。

「そうか!」

私は力いっぱい膝をたたいた。

「そうか! これが明星だったのか!」

私は目をみはって叫んだ。私はついに明星の秘密を発見した
第三の発見視床下部の秘密

私は幼少のときから剣道をしこまれた。藩の剣術師範の家柄に生まれ、 若年の折、江戸お玉ヶ池の千葉門で北辰一刀流を学んだという祖父に、はじめて木剣を持たされたのは三歳ごろであったろうか? そのとき私は、 祖父の顔をゆびさして「ピン目がこわい!」といって泣いたそうである。

そのころ八〇歳を過ぎていた祖父は、ほんとうの好々爺になりきってお
り、私はふだん、父よりも母よりもなついていたが、そのときばかりは、木剣のむこうに光った剣士鳥羽源三郎 源 靖之(祖父の名)の目に、ひとたまりもなくちぢみあがってしまったものらしい。めったに泣いたことのない私が一時間ちかくも泣いていたという。『それでもあんたは木剣だけははなさなかったよ」と、いまでも老母がほこらしげに語ってくれるのだが

――――、私は、のち、三段にまで昇り、健康を害してやめたが、剣の天分があるといわれ、少年時代、そのころ盛んであった各地の剣道大会に出場してかぞえきれぬほどの優勝をしたのは、この祖父の血を受けたものであろう。私は剣道が好きであった。防具のはずれの肘を打たれて腕がなえ、思わず竹刀をとり落としたりするときはつらいとは思ったが、苦にはならなかった。配金を越えて深くあざやかに面をとられたときは、目からパッと火が出て、ブーンときなくさいにおいを嗅いだ。ほんとうに目から火が出るのである。けっして形容詞ではないのだ。これは剣道修行の体験者ならばみなご存知のはずである。

その火なのだ。そのときの私の視野をかすめた閃光はせんこう

しばらくしてわれにかえった私はそれに気がついたのだった。そうだ。

あの火はあのときの火とおなじだ。そして目から火が出ると同時に面金のなかでかいだあのなつかしいキナくさいにおいもいっしょにかいだような気がしたのだが――、しかし、目から火が出る”ほどのこの衝撃は、いったいどうしたということであろうか? 外部から私の頭部を打ったものはなにひとつない。すると、私の頭の内部でなにごとがおこったというのであろうか。それともあれはなにかの錯覚であったのか?

私は、ふたたび一定のポーズをとり、頭をある角度からある角度にしずかに移しつつ特殊な呼吸法をおこなって、定にはいっていった。と、なんの予告も感覚もなしに、さっきとおなじ場所に火を感ずるのである。同時あかりに頭の深部にある音響が聞こえはじめた。私は、またさっきの痛覚を頭の一角に感じるのかとひそかにおそれつつ、少々、「おっかなびっくり」にそれをやったのであったが、今度はぜんぜん痛みもなにも感じなかった。そうして頭の内奥の上部に“明星”がふたたびまたたいた。

まさに――、私の脳の内部に一大異変が生じていることにはまちがいはなかった。しかし、それはどういう異変であろうか?

それは一種の化学反応によるショックであったのだ。

しんおうししょうか脳の深奥、「視床下部」に異変が起きたのである。すべての秘密は、間脳の内部の視床下部にあった。ここが秘密の原点だったのである。

私がさきの章で内分泌腺の機構について図までかかげて説明したのは、 これを知ってほしいためであった。専門学者はさぞかし片はらいたく思われるのにちがいなかろう。それを承知でおくめんもなく素人の私があえてそれをしたのは、この視床下部の秘密を読者に知ってほしいためであった。

◎すべての内分泌腺を統御しているのは視床下部である。そしてここが、
ヨーカでいタブテーマ・ランドラ(梵の座)であり、サハスラーラ・チャク
ラなのである。今までのヨーガの指導者のいうように、それは、松果腺、松果体ではない。視床下部が、サハスラーラ・チャクラなのである。もっとも、視床下部のすぐそばに松果体があるので、それを見あやまったのであろう。もっとも、松果体自身もある重要な役わりを受けもつ。けれども、サハスラーラ・チャクラそのものは松果腺ではなく、視床下部であっ視床下部はいまいったように、下垂体系を通じて全内分泌器官を統御する。それでは、なにをもって統御するのかというと、もちろんそれは神経”である。したがって視床下部には重要な神経がたくさん集まっている。私は、古代ヨーガのなかから、この部分を動かすポーズとムドラーを創案してここにつよい圧力をくわえ、同時に、強烈な思念(念力)を集中していた。百日のあいだ、たえまなく、私はここに、物質的、精神的、両面にわたるつよいエネルギーを集中した。その結果、ここの神経線維にただけたことと思う。いまから考えると、これは「求聞持聡明法」そのものの成戦ではなかったかもしれない。まったく新しい法の開発ではなかったかと思う。 (そのいずれであるかは別として、霊視・霊聴、ホトケの環形といった霊的な一大異変が生じたのだ。その異変により、神経線維が異常分泌をおこしたか、それともそこにある分泌液、神経液に変化がおきたのか、そのいずれであるかはわからぬが、それらの分泌液が複雑に混合し合って、化学反応をおこしたのだ。あの火は、その化学反応による衝撃が、視床の神経をはげしく打って、網膜に閃光を走らせたのだ。その衝撃はここの神経線維にシナプスをむすび、その火はいつでも私の思うまま私の脳の内奥に明星をまたたかせることとなった。同時に私の脳の構造も一変した。求聞持聡明法の成就である。求聞持聡明法とは、脳の内部の化学反応による脳組織の変革であったのだ。

(『密教・超能力の秘密』 平河出版社)

 

 

守護神、光の姿 Guardian Spirit — Form of Light

 

 

守護神、光の姿

Guardian Spirit —

Form of Light

霧に沈む山寺の朝
香炉の煙が空に溶ける
祖霊の声は風に乗り
祈りが光となりゆく
On avocya beiroshanow
makabodara
mani handoma jinbara
harabaritaya un”

迷える霊は守護となり
闇を照らす光と変わる
成仏の道に魂をゆだね
心に金色の朝が昇る
On avocya beiroshanow
makabodara
mani handoma jinb
ara
harabaritaya un”

In mist, the mountain temple sleeps,
Incense smoke dissolves in sky,
Voices of ancestors ride the wind,
Prayers awaken, turning to light.
On Avocya Beiroshanow
Makabodara
Mani Handoma Jinbara
Harabaritaya Un

Lost spirits rise as guardians bright,
Darkness turns to sacred light,
Through Buddha’s path, the soul released,
A golden dawn ascends within.
On Avocya Beiroshanow
Makabodara
Mani Handoma Jinbara
Harabaritaya Un

 

守護の光、村に降る

 

守護の光、村に降る

夜明けの金光が、山の稜線を越えて村を包んだ。
その光はやわらかく、まるで息をしているかのように、屋根や木々の上を流れていく。
誰もその正体を知らなかった。
ただ、村人たちはその朝、ふしぎな静けさを感じた。
いつもの風音も、犬の遠吠えも、なぜか穏やかだった。

老女・キヌは、長年、胸の痛みに悩まされていた。
だがその朝、目を覚ましたとき、痛みはすでに消えていた。
代わりに胸の奥が温かく、まるで誰かに抱かれているような安らぎがあった。
「おじいさん……?」
亡き夫の名を呼ぶと、障子越しに光が差し、香のような匂いが漂った。
それは彼女が若い頃、夫と初めて寺へ参った日の香だった。
キヌは泣きながら合掌した。
「守ってくださっているのね……」

山のふもとの田畑では、長雨で枯れかけていた稲が、再び青く息を吹き返した。
農夫たちは驚きながらも、互いに言葉を交わした。
「まるで神様が戻ってきたようだな」
「いや、あの寺の導師が夜を徹して祈っていたらしい」
「そうか……なら、あの光は――」

一方、玄照の弟子・慧真は、夜の修行堂で座していた。
彼もまた、霊妙な変化を感じ取っていた。
瞑想の中で、村全体が淡い光に包まれ、
人々の苦しみや怨嗟が、霧のように溶けていくのを見た。

「師の法は、確かに霊界を動かした……
だが、守護の光とは、ただ奇跡を起こすものではない」

慧真はゆっくりと目を開けた。
窓の外では、子供たちが笑いながら遊んでいる。
その笑い声が、村に久しくなかった響きだった。
――守護の光とは、人の心を明るくする力なのだ。
そのとき、彼の頭上にも、微かに金の光が揺れた。

夕暮れ、玄照は堂の前に立ち、山を見下ろしていた。
村の屋根ひとつひとつに、細い光の糸がかかっている。
それはまるで、見えぬ祈りが人々の暮らしに結ばれているようだった。
「これが……守護の働きか」

風が吹き、竹林がさやめく。
その中に、かすかな声があった。
「われらはここに在り、見守り、導く。
光は絶えず、祈りは途切れぬ。」

導師は深く一礼した。
そのとき、村の上空を白鶴がひとすじ舞い、
翼の先から散った光が夜空に星を咲かせた。

守護を継ぐ者の覚醒

夜明けの村は、まだ夢の余韻の中にあった。
霜を含む風が田の端を渡り、守護の光がゆるやかに地を包んでいる。
社の前では、慧真が静かに座していた。昨夜まで天を満たしていた黄金の光は、今はかすかな燐光となり、彼の肩と掌に宿っている。

鳥の声が一つ、東の森から響いた。
その瞬間、慧真の胸奥に熱が走る。
それは祈りの炎――いや、祈る者を超えて「護る者」へと変わる覚悟の炎だった。

「導師……私は、もう問うことをやめます」
誰に告げるでもなく、彼は微笑んだ。
掌を合わせるたび、光が微かに広がり、村の家々の屋根を撫でていく。
病床の老母が穏やかな息をつき、幼子の泣き声がやわらぐ。
それは奇跡ではなかった。
ただ、ひとつの心が純粋に他を思うとき、世界が応じたのだ。

慧真は立ち上がり、朝露の野を歩き始める。
手を差し伸べるたびに、光が人々の手と交わり、言葉を超えた安らぎが流れた。
「守護の行」はもはや儀式ではない。
人と人とが互いに護り合う、その日々の姿こそが、守護神の住まう場所なのだと、慧真は悟っていた。

その頃、遠く離れた山中の庵で、導師は座していた。
瞑想の深みに沈む彼の前に、ふと一陣の風が吹く。
香木の煙が揺れ、炉の灰が微かに光を放った。
その光の中に、弟子の顔が浮かぶ。
静かに目を開けた導師は、微笑みながら呟いた。

「ようやく、ひとつの灯が自ら燃え始めたか。」

その声は、風と共に山を下り、村へと届いた。
慧真は空を仰ぐ。
白金の雲の間から、一筋の光が降り、社の屋根に映える。
その光は彼の瞳に映り、心の奥に刻まれた。
いつか自らも導く者となり、また誰かにその火を渡す日が来る。
守護の法は、名もない祈りの中で脈々と息づいていくのだ。

朝の陽が完全に昇ると、光は大地に溶けていった。
だがその輝きは消えなかった。
村人たちの眼差し、言葉、そして行いの中に――
世代を超えて続く、静かな守護の灯として。

護りの火、次代へ

季節が巡り、村には穏やかな春の風が戻っていた。
社の周りには小さな花が咲き、かつて闇に沈んでいた田も、いまは陽光を映す鏡のように輝いている。
人々の顔に宿る微笑は、かつての恐れを忘れたように柔らかい。
その中心で、慧真はひとり、炉の火を守っていた。

導師から授かった火は、いまや彼の掌の中で静かに燃え続けている。
薪をくべるたび、炎はさざめき、まるで言葉をもっているかのように光を揺らめかせた。
――護りとは、燃やすこと。
自らを照らし、他を温めること。
慧真はその意味を、ようやく全身で理解していた。

ある夕暮れ、村の少年が社を訪れた。
幼い目に、炉の火が映る。
「この火は、いつまで燃えてるの?」と少年が問う。
慧真は少し笑い、静かに答えた。
「火は消えることがある。でもね、心に移せば、どこまでも燃やせるんだ。」
そう言って、小さな灯を手に取り、少年の掌へと移した。
炎はほとんど見えぬほどの微かな光だったが、その温もりは確かに生きていた。

それからの日々、慧真は村人たちとともに働き、祈り、笑い合った。
守護の法はもはや特別な儀式ではなかった。
子が親を想うこと、互いに助け合うこと、亡き者を偲ぶこと――
そのすべてが、護りの行となっていた。

夜更け、慧真は星空を見上げる。
導師が暮らす山の方角に、ひときわ明るい星が瞬いていた。
まるでその光が、「まだ道は続いている」と語りかけているようだった。

「師よ、私はあなたの教えを炎として受け取りました。
けれど今はもう、私の名で灯を継ぎたいのです。」

その言葉とともに、慧真は炉の前に座し、両手を合わせた。
風がそっと吹き、火の粉が夜空へ舞い上がる。
それは星と一つになり、遠い未来へと放たれていった。

翌朝、村の子どもたちは社の前で火を囲み、祈りを交わしていた。
その光景を見つめながら、慧真は静かに目を閉じた。
導師がかつて語った言葉が、風のように耳に蘇る。

「護りとは、形を越えて伝わるもの。
炎が火種を生むように、心が心を照らすのだ。」

そのとき、慧真は悟った。
この村の祈りはやがて他の地へ広がり、時を越えてまた新たな守護者を生む。
火は、決して一人のもので終わらない。

空には春の光が満ち、白い雲がゆるやかに流れていく。
社の煙がその空へと昇り、やがて見えなくなったとき――
ひとつの時代が終わり、次の命が護りの火を受け継いだ。

虚空の声 ― 師と弟子を超えた存在の啓示

夜がすべてを包み、風さえも息をひそめていた。
村の社の灯は、遠くの星と呼応するように揺らめき、
その中で慧真は一人、瞑想の坐に入っていた。

炉の火は小さく、けれど消えることはなかった。
炎のゆらめきが空気を透かし、
そこに漂う微細な光が、まるで見えぬ経文のように空を流れてゆく。
彼の心は、もう自己という輪郭を持たなかった。
呼吸は音もなく、思考は言葉を超え、
ただ「在る」という無限の静けさが、彼の全身を満たしていた。

そのときだった。

――慧真。

音ではなかった。
それは風でもなく、鐘の響きでもない。
虚空そのものが、彼の心の奥底で声を発した。
それはかつての導師の声に似ていたが、
同時に、星々の囁きのようでもあった。

「汝が燃やした火は、もはや一人のための灯ではない。
名を離れ、形を離れ、法として自ずから燃ゆる。
我もまた、その火の中に在る。」

慧真は胸の奥が静かに震えるのを感じた。
涙が流れたが、それは悲しみではなかった。
虚空はさらに語り続ける。

「師とは形なき道の先に立つ者、
弟子とはその道を歩む者。
だが、道が光に溶けるとき、
歩む者も、導く者も、もはや分かたれぬ。」

炎がふと高くなり、社の屋根を越えて夜空を照らした。
光は星の群れへと伸び、空に金の環を描く。
それはまるで、導師の祈りが天と地を結び直すかのようであった。

同じ時刻、遠く離れた山の庵で、導師は坐していた。
胸の奥に、温かな波が静かに広がってゆく。
「……来たか。」
微笑を浮かべたその顔に、老いも若さもなく、
ただ一つの光が宿っていた。

彼は目を閉じ、慧真の名を呼ぶでもなく、
ただ無言のまま、法の流れを感じ取った。
火は渡された。
もはや、師の言葉も導きも不要である。
法が法を導く時、修行は「誰かのもの」ではなくなるのだ。

慧真は空を仰いだ。
光はやがて穏やかに沈み、闇は再び村を包み込む。
だが、その闇はもはや恐れではなかった。
虚空は沈黙しながら、なお語り続けていた。

「護りとは、命の呼吸そのもの。
火は消えず、ただ形を変える。
風となり、水となり、人の祈りとなって、
世代を越えて灯り続けるであろう。」

慧真は炉の前で合掌した。
指先から立ちのぼる微かな光が、頬を照らす。
その瞬間、彼はすべてを悟った。

導師も弟子も、祖霊も神も、
ひとつの「法の息吹」として互いに呼応しているのだと。

彼は立ち上がり、ゆっくりと東の空を見つめた。
夜明けの兆しが、山の端にうっすらと広がっていく。
その光の中に、彼は確かに師の面影を見た。
だが、それはもはや「誰か」ではなかった。
虚空が微笑み、無限の沈黙が新たな息を吹き込む。

――護りの火は、いま、虚空の中で燃えている。
その光は名を持たず、終わりも持たない。
ただ、遍く生命の奥で、ひそやかに語り続けていた。

虚空蔵の微笑 ― 終わりなき法の循環

東の空が淡い金色に染まり、夜の名残が静かに消えゆく頃、慧真は社の前に立っていた。
炉の火は微かに燃え、煙は天に溶け、見えぬ曼荼羅の輪を描くように漂っていた。
村人たちは静かに目を閉じ、子どもたちは互いに手を取り、光の輪に包まれている。
その光は、もはや慧真だけのものではなかった。
師の想い、祖霊の祈り、そして彼らを護る守護の力が、一つに融合していた。

遠くの山中で、導師もまた坐していた。
胸の奥に、微細な振動が流れる。
それは慧真の呼吸と共鳴し、祖霊の声と、空に広がる星の息吹と、静かに重なり合った。
「法は循環する……途切れることなく、形を超えて。」
導師の心に、確かな微笑が浮かぶ。
その微笑は、もはや個を超えたものだった。
虚空そのものが微笑んでいるかのように、世界が穏やかに震えた。

慧真は炉に近づき、掌に残る火の粉を空に放った。
それはひとつの光の粒子となり、風に乗って村を、山を、川を越えて流れてゆく。
その瞬間、彼は悟った。
この火は、もはや自分のものではない。
村人たちの祈りと共に、祖霊の力と共に、導師の教えと共に――
宇宙の循環の中で、永遠に燃え続けるものなのだと。

社の影で、祖霊たちの気配が柔らかく揺れた。
かつては人間として、生活の中で悩み、喜び、苦しんだ魂たちが、
今や光となり、風となり、慧真と村を護る力として満ちていた。
守護の光は、誰もが触れられるほど近くにあり、しかしすべてを包み込むほど広大であった。

「これが……法の本質か」
慧真は静かに息を吐き、目を閉じた。
虚空は答えを返さず、しかしすべてを示していた。
無限の星々が、川のせせらぎが、木々の葉擦れが、
ひとつの調和として、彼の内に響き渡る。

やがて朝日が完全に昇り、光は村を黄金に染めた。
子どもたちは遊びながら、火の話を交わす。
老人たちは微笑み、かつての不安や迷いを忘れていた。
そして慧真は静かに歩き、光を受け継ぐ者として、ひとつひとつの手を取って導いた。

遠くの山では、導師の目にも光が宿る。
「よくぞ灯を渡したか……」
しかしその光は、もはや彼だけのものではない。
法そのものが、世界に満ち、すべての生命を貫いていた。

風が吹き、火の粉が星と交わる。
それは人の世代を超え、時間を越え、空間を越えて、
護りの火として、すべての生命の中に生き続ける。
慧真も導師も、祖霊も、そして村人たちも――
ひとつの循環の中で、虚空の微笑に包まれていた。

虚空蔵の微笑は、終わることなく、始まりのない法の流れとして、
世界の奥底で静かに、しかし確かに、永遠に輝いているのだった。

 

 

 

 

祖霊を守護神とする道

祖霊を守護神とする道

夜明け前の山寺には、まだ深い霧が残っていた。
谷を渡る風に混じって、鈴の音がかすかに響く。

「師よ……」
若き弟子は、香炉の前で膝をつきながら問うた。
「先祖の霊を守護神とすることは、神道の教えではありませんか? なぜ仏の道を歩む我らが、そのような祀りを行うのですか?」

師僧は、静かに目を閉じていた。
炉の煙が真っすぐに立ちのぼり、やがてその輪郭が光を帯びる。

「よい問いだ」
その声は、山の霊気とひとつに溶け合って響いた。
「祖霊を守護神とすること――それは神道における“氏神”の発想と似ている。だが、似ているというだけで同じではない。」

師は、ゆっくりと立ち上がり、堂の奥にある古い位牌を撫でた。
その木肌には、無数の祈りが染み込んでいるようだった。

「祖先の中には、徳高く、力ある者がいる。彼らは死してなお霊格を得、子孫を護ろうとする。われらはその霊を供養し、その力を育て、守護霊として迎えるのだ。
しかし、それはただ祀るだけではならぬ。仏の法においては、必ず“成仏”の道を経なければならない。」

「成仏……」と弟子はつぶやいた。

師は頷いた。
「神道においては、祖霊を祭祀によって神格化する。だが、仏教の道は“解脱”を通してその霊格を高める。つまり、祖霊が迷いのままでは、真の守護とはなり得ぬのだ。」

風が障子を鳴らした。

「成仏のためには、逆修供養――すなわち、生者が死者に代わって修する法が必要となる。
本来、それは容易なことではない。霊界に通じた霊山にて、仏舎利を祀り、阿闍梨が導きを与える……そのような聖地でこそ、祖霊は真に昇格できる。」

「では、わたしたちのような者には……?」

師は微笑んだ。
「すべての者が、霊山を持つわけではない。だが、心に“霊山”を築くことはできる。
己の心を清め、祖霊に祈り、供養の誠を尽くすとき、そこに仏陀の光が通う。
その光が、迷える霊を解き放ち、有徳の霊を守護の座へと導くのだ。」

弟子は頭を垂れ、香をひとすじ捧げた。

師はつづけた。
「人間の不幸や災いの多くは、先祖の業が影のように連なって生ずる。
その影が“霊障”である。だが、それを恐れるな。
苦しむ霊を解脱させるとき、彼らはやがて護る者へと変わる。怨念は慈悲に転じ、苦しみは智慧となる。」

香の煙は、天井近くで静かに形を変えた。
その姿はまるで、祖霊が微笑みながら昇るかのようであった。

「覚えておけ、」
師は最後に言った。
「祖霊を守護神とするということは、ただ“祀る”のではない。
彼らを成仏させ、その功徳をわが身に廻向すること――それが仏の道における真の供養であり、守護の法なのだ。」

堂の外では、東の空が白みはじめていた。
霧の向こうで、鳥がひと声、鳴いた。
その声はまるで、すでに解脱した祖霊の祝福のように澄みわたっていた。

成仏法を修する導師

その夜、山寺の奥の間には、ひとすじの灯明だけが揺れていた。
外は風が強く、杉の梢がざわめいている。
導師・玄照は、誰もいない堂内に坐していた。
白衣の袖がわずかに揺れ、胸の数珠が、かすかな音をたてる。

炉の灰に沈む香木の香が、まるで霊界の扉を開く鍵のように、静かに広がっていった。

玄照の前には、位牌が三つ並んでいる。
それは、供養を願って里の人々が託していった祖霊たちの名。
いずれも成仏を遂げられず、現世に影を残す者たちであった。

導師は、深く息を整え、心の底で唱える。

――「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン」

その声は、単なる音ではなかった。
ひとつひとつの音が光を帯び、空間を震わせ、堂の四方に結界を築いていく。

蝋燭の火がふっと細くなり、次の瞬間、青い炎が立ち上がった。
その中に、微かに人影が浮かぶ。
迷える霊が呼ばれたのだ。

「……恐れることはない」
導師の声は、風のように柔らかかった。
「汝らは長き眠りのなかで、怒りと悲しみに縛られてきた。
だが、ここに仏の光がある。
それを受けよ。汝の苦しみは、いま、法に還る。」

玄照は両手を胸の前で合わせ、印を結ぶ。
その指先から放たれた光は、まるで水のように空へ流れ、霊たちの影を包んだ。

一体、また一体と、姿が柔らかくほどけていく。
闇に沈んでいた顔が、次第に安らぎの表情へと変わる。

その瞬間、導師の背後に、黄金の光が広がった。
仏舎利塔の上に宿る如来の光である。
それは人の目には見えぬはずの霊光だったが、
その夜だけは、堂を満たすすべてのものがその光に染まっていた。

導師の心には、ひとつの声が響いた。
――「生と死に隔てなし。すべては因縁の流れなり。
解き放たれた霊は、守護となり、灯火のごとく子孫を照らす。」

玄照はゆっくりと目を開けた。
炎は穏やかに揺れ、霊たちの影はもうどこにもない。
ただ、位牌の前に一筋の白い煙が立ちのぼり、
それが天井を抜けて夜空へと昇っていくのを見送った。

その煙の先に、誰かの微笑みがあった。
まるで、いま成仏を遂げた祖霊が、感謝の念を残して去っていくようだった。

玄照は合掌し、静かに唱える。
「願わくは、この功徳をもって、一切の有縁無縁の霊に廻らさん。
これより護りとなり、光となりて、すべての子らを導かれよ。」

外の風がやみ、夜空には満天の星が現れていた。
堂を出た導師の顔には、疲労の影もなく、ただ深い慈悲の光が宿っていた。

山の静寂の中、ひとつの祈りが、霊界と現世をつなぐ橋となっていた。

守護神、光の姿をもって現れる

夜が明けきる前、山の東がかすかに白んでいた。
霧が薄れ、竹林の葉が露を震わせる。
導師・玄照は、まだ灯の残る堂の前に立ち、
深く合掌したまま、静かに息を整えていた。

――供養は終わった。
だが、法はまだ続いている。

その瞬間だった。
山の空気が、ふと変わった。
風が止み、鳥たちの声が遠くへ退いた。
世界が、ひとつの呼吸を潜めたかのように、静止する。

堂の前の空間に、淡い光が立ちのぼった。
それははじめ、香煙のように揺らめいていたが、
やがて形を帯び、ひとつの人影となった。

白い衣の裾が風にたなびき、
その背には、光の羽が透けて見えた。
顔は穏やかで、しかし確かな威厳が宿っている。

「……あなたは……」
玄照の唇が、かすかに震えた。
見覚えのある顔だった。
この寺の建立を願い、亡くなった古い信徒の祖である。

だが今、その姿は人ではなかった。
霊格を超え、まるで神の相を帯びていた。

光の者は、静かに微笑んだ。
「導師よ。あなたの法により、われらは成仏した。
だが終わりではない。
この身は、光となり、守護の位へと昇らせていただいた。」

その声は、言葉を超えて玄照の胸に響いた。
心の奥が震え、涙がこぼれた。

「わたしたちは子孫を護り、この地を護る。
彼らの思い、悲しみ、願い――すべてを受け止め、
道を照らす灯火となろう。」

すると、光の背後に七つの光輪が現れた。
金、白、蒼、朱、翠、紫、そして透明。
それらは霊界と現世を結ぶ七つの法輪であり、
守護神へと昇華した霊たちの印であった。

堂の屋根の上には、一羽の白鶴が舞い降りた。
その羽から金の粉が舞い散り、風が再び流れ始める。

玄照は地にひれ伏し、祈りの言葉を捧げた。
「願わくは、この光、永遠に絶えず。
護る者として、導く者として、
この世のすべての苦しむ魂に安寧を――」

光の人影は、微笑んだまま、ゆっくりと空へ昇っていく。
やがて白い雲に溶け、姿は見えなくなった。

だが、その瞬間、山全体が金色の朝日に包まれた。
竹の葉が光を反射し、川の水面がきらめく。

玄照はその光景を見つめながら、悟った。

――祖霊は滅びず。
祈りの中に息づき、護りの力として働く。
人の心が真に清まるとき、そこに神は顕れる。

その日以降、村の人々は奇妙な安らぎを覚えたという。
長く続いた病が癒え、家々の争いが静まった。
誰もその理由を知らなかったが、
山の上の堂の屋根には、いつも金色の光が降り注いでいた。