空海の胸 求聞持 摩尼宝珠
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空海の胸 求聞持 摩尼宝珠
空海の胸 求聞持 摩尼宝珠
空海の胸の奥、
摩尼宝珠の位置が、
静かに震えた。
恵果は、言う。
「来たか」
それだけだった。
言葉が不要になる
空海は、息を吸う。
自己紹介も、
志も、
修行歴も、
すべてが不要だと、
身体が知っている。
恵果は続ける。
「求聞持を修したな」
問いではない。
確認でもない。
事実の宣言。
空海は、うなずく。
それ以上、何も言わない。
法が交わる
恵果は、立ち上がり、
曼荼羅の前に進む。
指で、中心を示す。
「ここだ」
その瞬間、
空海の内側で、
同じ位置が、
同時に応える。
胎蔵界。
除盖障院。
不思議慧。
説明は、なされない。
一致だけが起こる。
時間の短縮
恵果は、笑った。
「長くは要らぬ」
「お前は、
すでに半分、終えている」
それは誇りではない。
評価でもない。
事実だった。
空海は、その言葉に、
安堵も、喜びも、
感じなかった。
ただ、
ようやく合ったという感覚。
師と弟子
恵果は、初めて名を呼ぶ。
「空海」
まだ、日本でも定まらぬその名を、
まるで昔から知っていたかのように。
「ここに留まれ」
「急ぐ」
「だが、
すべてを渡す」
その言葉が、
未来を決める。
言葉の後
その日、
多くの説明がなされた。
真言。
印。
灌頂。
だが、
本当の伝授は、
最初の沈黙で終わっていた。
法は、
言葉より先に交わった。
だからこそ、
すべてが、
間に合った。
空海は、夜、ひとり坐す。
思う。
――師とは、
――探す者ではなかった。
――見抜く者だった。
そして同時に。
――弟子とは、
――選ばれる者ではない。
――すでに来ている者なのだ。
明星の内部
空海は、あの地でサンスクリットを操った。
それは「学んだ」という次元ではない。
言葉が、すでに身体の奥で呼吸していた、という感触だ。
彼ほどの天才が、密教の源流であるヨーガに触れずにいたとは、どうしても思えなかった。
求聞持聡明法――
あの過酷な修法の底には、古代ヨーガの技法が、沈殿物のように潜んでいたに違いない。
だが、時代はそれを失わせた。
高野や根来の山奥で、ただ一人、法に身を投じる覚鑽の日々。
そこに、体系化されたヨーガの技術はなかった。
断片だけがあった。
印明のかたち、呼吸の名残、言葉にならぬ感覚。
それらを拾い集め、頭脳でつなぎ合わせ、再構築する。
それは修行というより、孤独な格闘だった。
――疲労困憊。
空海は、そこまで行ったに違いない。
私は、同じ場所に立っている。
だが千年という時間は、私に便宜を与えた。
書物があり、記録があり、比較できる知がある。
二度目の修法で、私は古代ヨーガの技術を取り入れた。
身体が、静かに、しかし確かに応えた。
五十日。
成就はなかったが、確信があった。
間違っていない。
この方法で、必ず至る。
山に籠もる必要はない。
明星を、最初の数日、深く脳裏に刻めばよい。
あとは日常のなかで、積み重ねればいい。
法は、民衆から切
特別な者だけのものになった瞬間、法は死ぬ。
――だから、完成させねばならない。
三度目の修法に入った。
百度目のトレーニング。
九種の印明、特殊な呼吸、そして私が創案した手印とポーズ。
身体と大脳皮質が、微妙に変わっていく。
チャクラは、確かに応答していた。
六感が告げていた。
「熟しつつある」と。
夜明け前。
眠りではない。
意識が、薄く揺らいだ。
その刹那――
「ああッ!」
脳の奥に、電流が走った。
紫電。
閃光。
視界が、真白に焼き切れる。
失明――
その言葉が、一瞬よぎった。
だが、次の瞬間。
頭の深部に、ぽっかりと灯がともった。
それは、脈拍と同じリズムで、静かにまたたいていた。
冷たく、黄ばんだ白。
あの日、山中で見つめた、暁の明星。
「そうか……」
私は、膝を打った。
「これが、明星だったのか」
外にある星ではない。
内に現れる光。
私は、秘密を見た。
再びポーズをとり、呼吸を深める。
恐れながら、同じ動作を繰り返す。
痛みはなかった。
だが、確かに、光は再びまたたいた。
脳の内部で、何かが変わった。
否、変わり続けている。
その中心――
視床下部。
すべての内分泌を統御する場所。
ヨーガが「梵の座」と呼んだ領域。
サハスララ・チャクラ。
松果体ではない。
誤解されてきたが、真の中枢は、そこではなかった。
私は、そこに圧をかけた。
肉体的にも、精神的にも。
百日間、絶え間なく。
そして、化学反応が起きた。
神経が、異常な発火を起こし、光が走った。
明星は、外から来たのではない。
脳が、変わったのだ。
思えば、剣道で面を打たれたときの、あの火。
あれもまた、内側で起きた現象だった。
求聞持聡明法とは、奇跡ではない。
脳の内部で起こる、変革なのだ。
光は、いつでも呼び出せる。
私は、内なる明星を得た。
――成就。
それは、神秘ではなく、
人間の内奥に眠る、可能性の点火だった。
十二支ごとの守り本尊(守護仏)は、千手観音(子)、虚空蔵菩薩(丑・寅)、文殊菩薩(卯)、普賢菩薩(辰・巳)、勢至菩薩(午)、大日如来(未・申)、不動明王(酉)、**阿弥陀如来(戌・亥)**の8尊で、生まれ年の干支(えと)によって定められ、一生涯の厄除けや開運を祈願する仏様です。これらは「八体仏」とも呼ばれ、古くから信仰されてきました。
十二支と守り本尊
子(ねずみ):千手観音菩薩 (せんじゅかんぜおんぼさつ)
丑(うし)・寅(とら):虚空蔵菩薩 (こくうぞうぼさつ)
卯(うさぎ):文殊菩薩 (もんじゅぼさつ)
辰(たつ)・巳(へび):普賢菩薩 (ふげんぼさつ)
午(うま):勢至菩薩 (せいしぼさつ)
未(ひつじ)・申(さる):大日如来 (だいにちにょらい)
酉(とり):不動明王 (ふどうみょうおう)
戌(いぬ)・亥(いのしし):阿弥陀如来 (あみだにょらい)
守り本尊の信仰につ