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鹿野苑の朝

鹿野苑の朝

静かな朝だった。
空にはやわらかな光がさしはじめ、草木がかすかに揺れている。

ゴータマ――いや、いまや覚者となったブッダは、鹿野苑へと歩みを進めていた。
彼の心は、深い静けさに包まれていた。
だが、同時に、燃えるような情熱もまた胸にあった。

「誰かにこの道を伝えなければならない。」
「苦しみを超える道が、ここにある。」

そこにいた。
五人の修行者たち――

かつて、ともに苦行を重ねた仲間たち。
だが、ブッダが苦行を捨てたとき、彼らは軽蔑のまなざしを向け、彼を見捨てたのだった。

五人は、遠くから彼の姿を認めたとき、最初は顔をしかめた。

「ほら、あの男が戻ってきたぞ。」
「堕落者め。欲に負けた男だ。」
「話す必要などない。ただ無視しろ。」

そう、彼らは互いにささやき合った。

だが、ブッダが近づいてくるにつれ、なぜか五人の心に、奇妙な感覚が広がっていった。
その歩みは、静かで、揺るぎなかった。
その目は、どこまでも澄みわたり、慈しみに満ちていた。
その存在そのものが、語らずして語っていた。

――この人は、かつての誰でもない。
――なにか、全く別のものになった。

五人は思わず立ち上がり、ひざまずいた。
ブッダの前に、頭を垂れた。

最初の説法 ― 初転法輪

ブッダは、静かに彼らを見渡した。
優しく、そして力強く口を開く。

「比丘たちよ。
二つの極端を避けよ。」

一つは、欲望に溺れる快楽の道。
もう一つは、自己を苦しめる過酷な苦行の道。

どちらも、真理に至る道ではない。
中道――それこそが、悟りへ至る道である。

ブッダの声は、鹿野苑の空に、しずかに、しかし確かに響いた。
五人の修行者たちは、言葉の一つひとつを飲み込むように聴いていた。

「苦しみがある。
苦しみの原因がある。
苦しみの終滅がある。
苦しみを終わらせる道がある。」

これこそが、「四聖諦(ししょうたい)」であると。

苦しみとはなにか。
苦しみの原因とはなにか。
それは、欲望と無知に他ならない。
だが、これを滅する道がある――

それは、「八正道(はっしょうどう)」――
正しい見解、正しい思考、正しい言葉、正しい行い、正しい生活、正しい努力、正しい念、正しい定――

「この道を歩めば、
生も老いも病も死も、超えることができるのだ。」

ブッダの声は、力強く、かつ限りなく優しかった。
五人の修行者たちの心は、震えていた。
まるで、何百年も乾ききった大地に、初めて清らかな雨が降りそそいだかのように。

そして、その場で、五人のうち最初の一人、コンダンニャ(阿若憍陳如)が、
「すべてのものは生起し、滅びる」との理を心の底から悟ったのだった。

彼は叫んだ。

「わたしは、理解しました!」

こうして、ブッダに最初の弟子が生まれた。
世界で最初のサンガ(僧団)が、ここに生まれたのだった。

光は広がる

あの日、鹿野苑で灯された小さな光は、
やがて世界中へと広がっていく。

苦しみを超える道は、
いまも変わらず、われわれの足元に、
そっと敷かれている。

一歩、また一歩。
ブッダのように。

 

瞑想の道 〜ゴータマの旅路〜

瞑想の道 〜ゴータマの旅路〜

あたりを静寂が支配していた。
夜空は深い群青に染まり、ただ一筋の風が、菩提樹の葉を微かに揺らす。

ゴータマ・シッダールタは、ゆっくりと目を閉じた。
――ここに、瞑想のすべてがある。

彼の心は、静かに、しかし確実に、深い内奥へと沈んでいった。
瞑想には、五つの段階がある。
それを、ゴータマは身をもって体験してゆくのだった。

第一の段階――集中の完成

最初に訪れたのは、精進の境地だった。
彼はひたすらに一つの目的へと心を向け、想念はみだれず、身体は安らぎ、どこにも動揺がなかった。
内なる静けさが、彼を満たしていた。

第二の段階――静寂の海

やがて心は、より深く沈み、自然に定に入っていった。
第一禅定、第二禅定、第三禅定、第四禅定――
意識は順々に段階を進み、すべてが静謐へと融けてゆく。

第三の段階――清浄なる思念

彼の心に、もはや何ものも浮かばなかった。
ただ喜びと楽しみのみが残り、それすらも消えて、
清らかで明るい、絶対不動の思いに満たされた。

その瞬間、心の眼が開かれた。
彼は見た――

第四の段階――過去世の流れ

彼の前に、無数の生涯の光景が展開しはじめた。
一生、二生、十生、二十生……無限の時の流れを、彼は遡っていった。

それは生命の根源をたどる旅であり、第一の智慧を得ることであった。

さらに彼は、ただ自分だけでなく、無数の存在たちの生死を透視した。
これが、存在を規定する宿業を見極める、第二の智慧であった。

第五の段階――解脱の瞑想

そして最後に、ゴータマは悟った。
四つの真理を、ありのままに見極め、
あらゆる存在からの解放と超越を完成させた。

これが、第三の智慧。
解脱の瞑想であった。

道は誰にでも開かれている

これはゴータマただ一人のための道ではない。
彼が最初に切り開いた道を、われわれもまた歩むことができるのだ。

「釈迦は天才だ。我ら凡人とは違う」と思うだろうか?
だが、天才が開いた道は、もはや誰のものでもある。
ニュートンが万有引力を発見したように、
いまでは誰もが、それを知ることができるようになったのだ。

もちろん、それは容易い道ではない。
だが、ゴータマは親切に、数多くの道しるべを遺してくれた。
それをたどれば、たとえ頂点に至らずとも、
その道程のいくつかを、自らのものとすることは必ずできる。

最初の小さな一歩を踏み出すだけでも、
そこにはすばらしい世界が広がっている。

なぜ、彼は瞑想をはじめたのか?

それは、四苦八苦を解決するためだった。

生まれることの苦しみ。
老いることの苦しみ。
病むことの苦しみ。
死ぬことの苦しみ。

さらに、
愛する者と別れる苦しみ(愛別離苦)。
憎む者と出会い、共に生きなければならない苦しみ(怨憎会苦)。
求めても得られない苦しみ(求不得苦)。
そして、心身そのものが苦しみの源である苦しみ(五陰盛苦)。

――人間のからだとは、苦しみを盛る器なのだ。

ゴータマはそれを知っていた。
そして、彼は瞑想によって、その究極の解決を求めたのである。

 

瞑想体験には五つの段階がある

こには瞑想のすべてがある。このゴータマの体験を、もう少し掘りさげてみよう。

瞑想体験には五つの段階がある

ここには、瞑想の深まりとその結果が、じつにあざやかにかたられている。それは五つの段階に分けられる。

第一の段階

わたくしは、

しようじん 1、つねに一つの目的にむかって精進をつづけることができ、

2、想念が確立してみだれず、

3、からだは安楽で動揺しない。

第二の段階

じよう 4、心はいつも定に入って静かである。

第一禅定から第二、第三、第四禅定までしだいに深まっていって、

瞑想についての基礎知識

 

第三の段階

1、心に思い浮かぶなにものもなくなり、

2、喜びや楽しみだけとなり、

3、ついにはただ清浄な思いだけにみたされ、

4、一点のけがれもなく、清く明るく、絶対不動となった。

つづいて心の眼がひらかれ、

第四の段階

1、自分の前世における光景が展開しはじめる。

2、それは一生だけでなく、二生、三生、十生、二十生、とかぎりなくさかのぼり、無限の生涯の、生きかわり死にかわりした光景が展開する。

かゆうそれは生命の根源への遡及であり、第一の智慧の獲得であった。

心の眼はさらに広く深くひろがり、ひとの持つ能力の限界を越えて、過去、現在、そして未来へと流れてゆくあらゆるひとびとのすがたが透視される。

それは、存在を規制する宿業の実体の把握であった。

これが第二の智慧の獲得である。

第五の段階

つづいてわたくしは、

1、宿業から解脱する四つの真理を如実に知り、

2、あらゆる存在からの解説と超越を完成した。

それは第三の智慧の獲得であり、「解脱の瞑想」であった。

凡人にも道はひらかれている

ができるのだ。 いかがであろうか? すばらしい体験だとあなたは思わないだろうか? これが瞑想の効用なのである。そうしてだれでも、瞑想をすればこういう効果を得ること

だが、そう言うと、あなたは言うかもしれない。釈迦のような大天才と、凡人であるわれわれと、どうしていっしょになるものか、釈迦がそういうすばらしい体験をしたからといって、それがそのままわれわれに通ずるとはかぎらないのだ。むし

ろ、端のまねをするカラスで、結局、骨折り損のくたびれもうけということになるのではないか、と。

そうではないのである。

釈迦とおなじ瞑想をすることにより、われわれもまたかれと同じ結果に到達することが可能なのである。最初の道をきりひらくものは天才でなければならぬ。しかし、すでに天才のひらいた道は、だれでも歩むことができるのである。万有引力の発見は、ニュートンの天才を待たなければならなかったが、いまでは小学校の児童すら、万有引力は知っている。

もちろん、それは容易な道ではない。しかし、ゴータマ・ブッダは親切な道しるべをいくつも残しておいてくれた。それを真剣にたどることにより、かれの歩んだ道をあやまりなく歩むことは不可能ではない。かれが到達した最高の場所まで行くのは無理だとしても、そこまでのいくつかの段階を自分のものにすることはかならずできるのである。

そう! 最初のごく初歩の段階でもいいではないか。それでも、それはじつにす

か? いったい、ゴータマ・ブッダは、なにを目的として瞑想をはじめたのであろう

ばらしい世界なのである。それに、最初からそんなに多くのものを望むのは、欲ばりすぎるというものだ。さあ、瞑想の世界に一歩ふみこんでみよう。ブッダのあとを、少しずつたどってみようではないか。

かれはいったい、なんのために瞑想をはじめたのだ?

人間のからだは苦しみを盛る器であるうつわ

かれはいったいなんのために瞑想をはじめたのだ? という質問は、そのまま、 われわれはなんのために瞑想をはじめるのか? という質問に置きかえることができるであろう。

かれはいったいなんのために瞑想をはじめたのか?

ゴータマ・ブッダは、多くのひとの知る通り、「四苦八苦」の解決を目的として瞑想をはじめたのである。

では、四苦八苦とはなにか?

「生・老・病・死」

それは、

これを四苦といい、これに、

「愛別離苦,怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦」

の四苦をくわえて「八苦」という。

生きてゆく上に生ずるさまざまな苦しみ、

老いの苦しみ、

病気の苦しみ、

死の苦しみ、

そして、

愛するものと別れる苦しみ。

いのちまでもとちかい合った恋人どうし、あるいは、その愛がむくわれてめでた

くむすばれた相愛の夫婦、また、親子、兄弟、心から敬愛する師友、知己、みな、

離れがたいあいだがらであるが、いつなんどき別離の悲哀に泣くことになるかもしれぬのである。いや、愛するものとは、あながち人間関係のみとはかぎらない。地位、権力、職業等、さまざまなものを、わたくしたちは愛している。そういうものと、いやでも別離しなければならない苦しみ、これが愛別離苦である。

心の中で、深く怨み憎んでいる者と、顔を合わせ、生活をともにしていかなければならない苦しみ、その最も深刻な苦しみは、本来いちばん愛し合い和合し合わなければならないはずの夫婦、親子、兄弟が、かたきどうしのように憎み合い、 怨み合いながら、おなじ屋根の下で暮らしていかなければならぬ苦しみであろう。

そうして、職場で上司や同僚と毎日、反目し合いながらはたらかなければならぬサラリーマンやOL嬢の苦しみも、これに準ずるものといえようか。

そういえば、いやでいやでたまらない学校へ毎日いって、きらいな勉強をしなければならない学生諸君の苦しみも、この怨憎会苦であろうし、ほかにやりたいことがありながら、生活のために、よぎなく好きでもない職場に就職するのも、この怨情会苦の一つである。だが考えてみれば、なりゆきとはいえ、この人生におい

て、はからずも怨み合い憎み合う人間関係を持たねばならぬ辛さ、やりきれなさ、 これが最も大きな怨憎会苦というべきかもしれない。

金、地位、権力、愛情、才能、知識等、求めても求めても得られぬ苦しみ。求めることにより生ずる不幸。しかし、また、求めることによって、人類は進歩し、成長するのである。この皮肉な苦しみ、求不得苦。

うつわ考えてみれば、この人間の五体そのものが、苦を盛る器のように思えてくる。 行住坐臥、とりたてていうほどのものではないながら、五体にひしひしと感じる身心の苦しみ。五陰盛苦である。

瞑想こそ究極の解決法

まことに、苦の世界とはよくいったもので、いま、この瞬間においても、わたくしたちは、この四苦八苦のどれかの苦しみを味わっているのではなかろうか。 あなたはどうであろう?

ゴータマ・ブッダは、この四苦八苦を解決する。

十六の誓い  Sixteen Vows

十六の誓い  Sixteen Vows

月の光が 祈りを染めて
静かな夜に 胸は震える
大地に伏して 願いを託し
遠い星々 答えを待つ

十六の道を この身に刻み
闇を裂いて 光を運べ
我が誓いは 空へと昇り
すべての命に 安らぎを

The moonlight dyes my prayer tonight
In the silent dark, my heart trembles
I bow to the earth, entrusting my wish
Waiting for the stars to whisper back

I carve sixteen paths into my soul
Tearing through the darkness, bearing the light
My vow ascends into the endless sky
To bring peace to every living being

 

道の途上 On the Way

道の途上
On the Way

静かに揺れる 林の奥で
若き心は 闇に迷い
砕けた誓い 胸を締めつけ
ひとり涙を 大地に落とす

それでも立ち上がる 倒れてもなお
真実を求めて 夜明けを越えて
心に灯した 消えぬ小さな火よ
アジャタよ 今、光となれ

In the forest swaying, quiet and deep,
A young heart wanders, lost in the dark,
A broken vow tightens around his chest,
He sheds his tears upon the earth alone.

Yet still he rises, even when he falls,
Seeking the truth beyond the break of dawn,
A tiny flame he lights within his soul,
Ajata, now, become the shining light.