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薬師如来

薬師如来

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
薬師如来

慧日寺跡 薬師如来坐像
薬師如来
梵名 「バイシャジヤグル」
भैषज्यगुरु
भैषज्यगुरुवैडूर्यप्रभराज
蔵名 སངས་རྒྱས་སྨན་བླ
別名 薬師瑠璃光如来
薬師仏
大医王
医王善逝
種字  バイ
真言・陀羅尼 オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ 他
#真言参照)
経典 薬師瑠璃光如来本願功徳経
『薬師瑠璃光如来消災除難念誦儀軌』
『薬師七仏供養儀軌如意王経』
信仰 密教
真言宗
天台宗
十三仏信仰
チベット仏教
浄土 東方瑠璃光浄土
関連項目 大日如来
釈迦如来
阿閦如来
日光菩薩
月光菩薩
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木造薬師如来立像
国宝元興寺[注釈 1]

薬師如来(やくしにょらい、サンスクリット語भैषज्यगुरुBhaiṣajyaguru[1]バイシャジヤグル)、あるいは薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)は、大乗仏教における信仰対象である如来の一尊。大医王医王善逝(いおうぜんぜい)とも称する[1]

三昧耶形薬壺、または丸薬の入った種字は尊名のイニシャルのバイ(भै、bhai)[2]

 

 

 

 

有漏の正思惟

朝靄の中、若き修行者シンは山道を登っていた。足元には霜の残る落ち葉が敷き詰められ、踏むたびにかすかな音を立てる。その音さえも、彼には自らの心を映すように感じられた。

――私はまだ、煩悩の只中にいる。

欲望が去ったわけではない。怒りが消えたわけでも、迷いが尽きたわけでもない。ただ、それらの闇を見つめる目だけは、ようやく少しずつ開かれつつあった。

師は言った。「思惟を恐れるな。ただし、それが煩悩に染まらぬよう注意せよ。それが正思惟だ」

彼は思い返す。

出離の思惟――この世を離れたいという願い。それは逃避ではない。快楽や欲望の果てに疲れ果て、ほんとうの安らぎを求める静かな意志。欲にまみれた心が、それでもどこかで「このままではいけない」と目覚める、かすかな光だ。

無瞋の思惟――怒りを抱いても、それに呑まれずに済む道を探すこと。誰かに心を傷つけられたとき、その苦しみの連鎖を断ち切ること。

無害の思惟――弱き者に手を差し伸べ、傷つけずに生きようとする姿勢。たとえ敵意を向けられても、報復を求めず、慈しみを返す勇気。

それらは、シンの中でまだ完成されてはいなかった。けれど確かに、芽生え始めていた。

「正思惟とは、煩悩を否定することではない。煩悩のなかにいても、それに引きずられず、清らかな心の方向を選ぶことだよ」

師のその言葉が、風のように耳の奥で響いた。

谷の向こうから、朝日が射し始めていた。冷えきった山の空気に、ひと筋の温もりが差し込む。シンは立ち止まり、静かに目を閉じた。

「この身は、まだ煩悩に染まる。しかし、この心に、正思惟の灯をともそう――」

それは小さな誓いだった。けれど、その一念が、迷いの森を抜ける第一歩になることを、彼はうすうす感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正思惟の灯ともしび The Light of Right Thought

正思惟の灯ともしび

The Light of Right Thought

朝靄の道に 足音ひとつ
霜を踏むたびに 心が揺れる
まだ消えぬ煩悩 胸に抱き
それでも光を 信じていた

出離の願いが 風に舞い
無瞋の祈りが 空に溶ける
無害の想いが 花を咲かせ
心にともす 正思惟の灯

 

On the misty path, a single step echoes
With every frost-crushed leaf, my spirit trembles
Still bearing desires I cannot yet flee
Yet I hold to the hope of a light I can’t see

A wish for release floats into the breeze
A prayer without anger melts into the sky
A thought without harm blooms soft and free
Kindling within me the light of Right Thought

有漏の正思惟

有漏の正思惟

 朝靄の中、若き修行者シンは山道を登っていた。足元には霜の残る落ち葉が敷き詰められ、踏むたびにかすかな音を立てる。その音さえも、彼には自らの心を映すように感じられた。

 ――私はまだ、煩悩の只中にいる。

 欲望が去ったわけではない。怒りが消えたわけでも、迷いが尽きたわけでもない。ただ、それらの闇を見つめる目だけは、ようやく少しずつ開かれつつあった。

 師は言った。「思惟を恐れるな。ただし、それが煩悩に染まらぬよう注意せよ。それが正思惟だ」

 彼は思い返す。

 出離の思惟――この世を離れたいという願い。それは逃避ではない。快楽や欲望の果てに疲れ果て、ほんとうの安らぎを求める静かな意志。欲にまみれた心が、それでもどこかで「このままではいけない」と目覚める、かすかな光だ。

 無瞋の思惟――怒りを抱いても、それに呑まれずに済む道を探すこと。誰かに心を傷つけられたとき、その苦しみの連鎖を断ち切ること。

 無害の思惟――弱き者に手を差し伸べ、傷つけずに生きようとする姿勢。たとえ敵意を向けられても、報復を求めず、慈しみを返す勇気。

 それらは、シンの中でまだ完成されてはいなかった。けれど確かに、芽生え始めていた。

 「正思惟とは、煩悩を否定することではない。煩悩のなかにいても、それに引きずられず、清らかな心の方向を選ぶことだよ」

 師のその言葉が、風のように耳の奥で響いた。

 谷の向こうから、朝日が射し始めていた。冷えきった山の空気に、ひと筋の温もりが差し込む。シンは立ち止まり、静かに目を閉じた。

 「この身は、まだ煩悩に染まる。しかし、この心に、正思惟の灯をともそう――」

 それは小さな誓いだった。けれど、その一念が、迷いの森を抜ける第一歩になることを、彼はうすうす感じていた。