UA-135459055-1

仏教

不動三尊の調和 The Harmony of the Fudō Triad

 

不動三尊の調和
The Harmony

of the Fudō Triad

焔は静かに 夜の闇を照らし
風は経巻を そっとめくっていく
影が三つ ひとつに重なり
沈黙が 教えを語りはじめる

Noumak sammanda bazaradan

senda makarosyada sowataya

untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द

मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

左に立つ者は 水のように澄み
問いを抱きし心で ただ主を仰ぐ
右に立つ者は 雷のごとく吼え
迷いを断ち切るために 怒りを燃やす

Noumak sammanda bazaradan senda makarosyada sowataya untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

中央の座にある者は 動かずして動き
怒りと慈悲をひとつに束ねる
その眼は すべてを見抜きながら
ただ灯火のように 闇を照らす

Noumak sammanda bazaradan

senda makarosyada sowataya

untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द

मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

やさしさだけでは救えず
激しさだけでは導けぬ
静と動が交わるところに
真の慈悲は 咲くのだ――

 

Noumak sammanda bazaradan

senda makarosyada sowataya

untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द

मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

The flame trembles softly, lighting the silent night,
The wind turns the sutra with a breath unseen,
Three shadows merge into a single vow,
And silence begins to speak its teaching.

Noumak sammanda bazaradan

senda makarosyada sowataya

untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द

मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

On the left stands one, calm as still waters,
Hands joined in prayer, eyes lifted to the Master,
On the right stands one, roaring like thunder,
Burning with fury to cut through illusion.

Noumak sammanda bazaradan

senda makarosyada sowataya

untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द

मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

In the center sits One, unmoving yet infinite,
Binding wrath and compassion into a single truth,
Eyes that pierce through all delusion,
A flame that lights the path through darkness.

Noumak sammanda bazaradan

senda makarosyada sowataya

untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द

मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

Kindness alone cannot liberate,
Fury alone cannot guide,
Only where stillness meets action
Does the true compassion bloom.

 

 

Noumak sammanda bazaradan

senda makarosyada sowataya

untarata kanman

नौमक सम्मण्ड बजरदन सेन्द

मकरोस्यादा सोवताय उण्टरा कां

oṃ dharma koṃgla tiṣṭa sra
oṃ karma śaiṭak ūṃ phaṭ ṇāṃ

仏舎利の灯 ― 奇蹟の刻 The Relic Flame ― Hour of Miracles

 

 

仏舎利の灯 ― 奇蹟の刻

The Relic Flame

― Hour of Miracles

 

静寂に沈む山の宙(そら)
灯火(ともしび)は魂を照らし
願いは言葉より深く
ひそかに仏へと渡る

Namosattanan
sanmyaksanmodaktinan
taniyata
on shaley shurei juntei
sowaka

入我我入 心よ開け
ひとすじの祈りが道となる
供養の花 いま捧げん
神変は 沈黙の中で生まれる

Namosattanan
sanmyaksanmodaktinan
taniyata
on shaley shurei juntei
sowaka

Silent mountains holding breath in night,
A single flame guides wandering souls.
A prayer deeper than spoken words,
quietly reaches the heart of the Buddha.

Namosattanan
Sanmyaksanmodaktinan
Taniyata
On shaley shurei juntei
Sowaka

Open, my heart — enter and be entered.
A single devotion becomes the path.
A humble flower becomes offering divine,
Miracles rise from the stillness within.

Namosattanan
Sanmyaksanmodaktinan
Taniyata
On shaley shurei juntei
Sowaka

仏舎利の灯 ― 奇蹟の刻

 

仏舎利の灯 ― 奇蹟の刻

風が止み、山の伽藍には深い静寂が満ちていた。
灯明の火がかすかに揺れ、香炉から立ちのぼる薄い煙は、まるで天へと戻る魂のように細く伸びてゆく。

青年――名を湧真(ゆうしん)という――は、仏舎利の前にひざまずき、掌を合わせた。
沈黙は長く、しかしその沈黙は空虚ではなかった。むしろ、言葉では測れない力が満ちていた。

師僧が静かに語りかける。

「湧真、神変という言葉を知っておるか。」

青年は首を横に振る。師僧は灯明を見つめたまま、淡く微笑んだ。

「神変とはな、人の常識では測れぬ力のことだ。
人が努力しても到達できぬほどの智慧、慈悲、そしてはかり知れぬ働き。
仏の救いの働きそのものといってよい。」

師僧の声は風のない空気の中で、不思議と奥行きを持って響いた。

「たとえば――夫婦が互いを思い、言葉なくとも心が通うときがある。
家族がまごころで相手を思えば、争いは起きぬ。
人と人が真心で向き合うとき、言葉よりはやく心が触れ合うのだ。
それもまた、ひとつの神変である。」

湧真はゆっくりと頷いた。
ふと、自分の胸の奥にまだ言葉にならぬ理解が宿るのを感じた。

「仏を拝むときも同じだ。
ただ形だけの礼では届かぬ。
心から拝むとき、仏の心と我が心は重なり始める。
密教ではこれを――“入我我入”、そして“即身成仏”と説く。」

師僧は湧真の背後に回り、そっと姿勢を正す。

「湧真よ。礼拝とは、ただ頭を下げることではない。
礼とは礼式に従い、拝とはまごころをもって祈ること。
型の中に信があるとき――仏は応じてくださる。
これを 感応道交 という。」

灯明が一瞬、風もないのに揺れた。湧真の心臓がわずかに震える。

師僧の声はさらに低く、深くなる。

「仏の力は妙なるものだ。
言葉では説明できぬ。
経典ではそれを“妙法”、すなわち“神変”と呼ぶ。」

少しの沈黙ののち、師僧は問う。

「では湧真。仏の功徳を得るにはどうすればよい?」

青年はしばらく考えたが、答えられなかった。

師は優しく告げた。

「――礼拝と供養だ。
その二つ以外にない。」

湧真は息をのみ、仏舎利に視線を戻した。

「供養とはな、仏に何かを差し出すことだ。
金でもよい、時間でもよい。
自分にできる精一杯を捧げるのだ。」

師僧は畳の上に置かれた小さな花を指さした。

「たとえ雑草の花であろうと、心を込めて捧げられたなら、それは供養となる。
しかし――なにも捧げず、ただ功徳や利益だけを求める心は、仏の前では空しい。」

湧真は胸の奥に痛みのような熱を感じた。
自分は、ただ救われたいと願うばかりで、何ひとつ捧げていなかったのだと気づく。

師僧は静かに結んだ。

「湧真。
仏と心が通じるとき、そこから道が交わる。
その交わりを通して――人は変わる。
それはまさしく奇蹟、神変の働きだ。」

湧真は深く息を吸い、掌を合わせ直す。
今度の礼は、先ほどのものとは違う。
形ではなく――心からのものだった。

灯明が再び揺れ、まるで応じるように光を放つ。

その瞬間、湧真は確かに感じた。

仏の心が、自分の心へ歩み寄ったことを。

愛染明王 愛欲を仏の悟りに変える力

 

愛染明王
愛欲を仏の悟りに変える力

 

夜の伽藍に 紅蓮が燃える
心の奥で 崩れた祈りが揺れる
触れられぬ愛が 闇を裂いて
欲と涙が ひとつに溶ける

逆巻く髪 怒りの仮面
第三の眼が 真実を射抜く
六つの腕が抱くのは
縛る矢か 解く蓮華か

「恋は鎖」
人々はそう言った
「執着は地獄」
恐れ 震えた

だが密なる法は 微笑んだ
――煩悩なくして悟りはなく
――苦しみなくして道は開かれぬ

宝瓶より溢れる光は
富ではなく 名ではなく
ただ
求める者の縁を照らす

祈りは恋
祈りは嫉妬
祈りは涙
祈りは赦し

愛欲は燃え
執念は燃え
その炎こそが
道となる

愛を恐れるな それは灯火
痛みも迷いも 抱きしめてゆけ
煩悩は罪じゃない 翼になる
紅蓮の明王よ 胸に灯を──

――愛は迷いであり、そして真実へ導く道。**

 

愛染明王

 

夜の伽藍に、焔のような気配が満ちた。

松煙の香が漂い、僧が三鈷杵を掲げると、空気が震え、闇の奥から赤い光が湧き上がった。
それは炎ではなく、しかし炎よりも熱を帯び、欲望よりも深く、祈りよりも切実な色──紅蓮の輝きであった。

やがてその光の中から、一尊の存在が姿を現す。

逆立つ黒髪は炎に似て、顔は天を睨むかのような憤怒相。
額には第三の眼が開き、見るものすべての執着と迷いを見抜くように光を放つ。
六本の腕は空を裂くように動き、その手には弓矢、五鈷杵、宝珠、蓮華、金剛鈴──人の心を縛り、同時に解き放つ法具が握られていた。

その名こそ――

愛染明王。

かつて、人々は言った。

「愛欲こそ、輪廻を逃れられぬ鎖である」と。
「恋は愚かさであり、執着は地獄へ落つる道である」と。

だが密教の叡智は、静かに微笑んだ。

――煩悩なくして、誰が悟りを求めるのか。
――苦しみなくして、誰が真理を欲するのか。

煩悩即菩提。

迷いと欲望こそ、悟りへと続く階段である。
燃えさかる愛欲を断つのではなく、それを智慧へと変える者。
それが、この憤怒の姿を纏う明王であった。

その足元には宝瓶があり、そこからは尽きぬ宝が溢れ落ち、光の粒となって宙に溶けてゆく。
それは富や名声ではない。
真に求められる縁、想い、導きを叶える福徳である。

人々の祈りは、時に恋であり、恨みであり、執着であり、涙であった。
夫婦の絆を求める声、別離に怯える心、新たな縁を願う焦がれる想い。
そのすべてが、明王の炎に投じられ、煩悩から祈願へ、執念から慈愛へと変じてゆく。

焔のような声が響く。

「愛を恐るるな。
それは汝を焼く火ではなく、汝を照らす光となる」

憎しみや嫉妬すら、明王の手には武器とも、宝ともなる。
ゆえにその存在は、恋愛成就、夫婦和合、縁結び、そして人間関係の調和を司るものとして古来より信仰された。
しかし願いを叶えるだけの神ではない。
戦に臨む武将もまた、この明王に祈った。
己の心こそ最も厄介な敵であることを知っていたからだ。

赤き憤怒の相の奥に宿るのは、静かな慈悲。

愛するがゆえに苦しむ者、求めるがゆえに迷う者。
そのすべてに、明王は告げる。

――欲を恥じるな。
――その炎を抱えたまま、歩め。
――いつかそれは、悟りの光となる。

紅蓮光は静かに揺れ、夜の伽藍を照らし続けた。

そして誰かの胸の奥に、気づかぬうちに燃える灯がともる。

「愛は迷いであり、同時に道である」

愛染明王は、ただそこに在り、
人間の弱さと願いと美しさを、すべて受け止めていた。