――終わりであり、始まりでもある場所。
そこには、何もなかった。
いや、「何もない」と言うことすら、すでに余計だったのかもしれない。
青年は、ただ立っていた。
足元の感触も、風の流れも、時間の経過も――感じられない。
それでも、確かに「ここにいる」という感覚だけが、静かにあった。
やがて、彼は問いを落とす。
「……なぜ、世界は続くのですか」
その声は、どこにも届かないはずだった。
だが――
「その問いを、よく見よ」
背後から、声がした。
振り向いても、そこに姿はない。
だが、確かに“誰か”がいる。
「お前は今、前提を握っている」
「前提……?」
「世界は始まった。ゆえに続いている。いずれ終わるかもしれない――とな」
青年の胸に、微かなざわめきが走る。
たしかに、そうだ。
疑ったことすらなかった。
「だが、それは――本当に見えているものか?」
沈黙。
その沈黙の中で、何かがゆっくりと崩れ始める。
始まりがある、という確信。
続いている、という時間の感覚。
終わるかもしれない、という未来の影。
それらが、まるで砂のように、指の間からこぼれ落ちていく。
「……では、世界は……」
青年は言いかけて、言葉を失った。
「始まっていないのですか」
声は、静かに応じた。
「“始まり”を見たことがあるか?」
その問いは、鋭く、しかし優しかった。
青年は目を閉じる。
記憶を辿る。
だが、どれもすでに“起きた後”の断片ばかりだ。
生まれた瞬間すら、自分では知らない。
「……ない」
「そうだ。始まりは、観測されたことがない」
声は続ける。
「ならば、“続いている”とは何のことだ?」
青年の内側で、何かが音を立てて崩れる。
時間。
連続。
過去から未来へ流れるという感覚。
それらが、一本の線ではなく――
ただの“思い込み”だったのではないかと、気づき始める。
「では……終わりは……?」
かすれるような声で、青年は問う。
「終わりを見た者がいるか?」
再び、沈黙。
そして、理解が訪れる。
終わりもまた――
誰も見たことがない。
「……ない」
「そうだ」
声は、静かに言い切った。
「始まりも、終わりも、確認されたことはない」
その瞬間だった。
世界が、わずかに揺らいだ。
いや、揺らいだのは世界ではない。
“世界だと思っていたもの”だった。
「では……これは……何なのですか」
青年の声は、震えていた。
恐れではない。
崩壊でもない。
それは――境界が消えかけている時の震えだった。
声は、すぐには答えなかった。
長い、長い静寂。
やがて――
「それは、“続いているもの”ではない」
「……?」
「ただ、現れているだけだ」
その言葉は、あまりにも静かで、あまりにも決定的だった。
「現れては消え、消えては現れる――そのように見えているだけで、本質的には“続き”など存在しない」
青年の視界が、ほどけていく。
時間が線ではなくなり、
空間が広がりではなくなり、
「自分」という中心が、輪郭を失っていく。
「……では……私は……」
言葉が、途中で消えた。
“私”という感覚が、ほどけていくからだ。
声は、最後にこう告げた。
「問いが消えたとき、答えもまた消える」
その瞬間――
青年は理解した。
世界は、続いていない。
始まってもいない。
終わることもない。
ただ――
いま、ここに、現れている。
それだけだった。
そして、その理解とともに――
“問いを持っていた者”もまた、静かに消えていった。




