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文殊菩薩 ――智慧の剣を持つ者

文殊菩薩 ――智慧の剣を持つ者

風のない静寂の夜、青蓮華の上にひとりの菩薩が坐していた。
その名は――文殊師利(もんじゅしり)
梵名をマンジュシュリー
「優しく」「美しく」「清らかに語る者」という意味を持つ。

その瞳は、何千年もの知恵を湛え、すべての迷いを透かして見通す。
右手には経巻――宇宙の真理を記した書を掲げ、
左手には利剣――無明を断ち切る光の刃を握る。

剣は炎を纏い、闇を裂く。
その一閃に触れた者の心は、迷いを捨て、真実を見る。

文殊はかつて、人の世にも現れたという。
古代インド、コーサラ国の舎衛城。
バラモンの家に生まれ、智慧を以て人々に経を伝えた聖者。
彼が記した言葉は、後に無数の経典へと姿を変え、
人の魂の奥に「問い」を灯した。

文殊の智慧は、ただの知識ではない。
それは「物事のあり方を正しく見極める目」。
世界の表も裏も、苦も楽も見通し、
そのどちらにも染まらぬ心の力である。

彼はしばしば、釈迦如来の左脇侍として現れる。
右には普賢菩薩、左には文殊菩薩――
智と行がひとつに融けあう三尊の姿で、
宇宙の調和を示す。

しかし、ある時、文殊は独り立つ。
獅子にまたがり、蓮華の上で微笑む。
その獅子は恐れを象徴し、
それを従える姿は、恐れさえ智慧のうちにあることを語る。

「三人寄れば文殊の知恵」と人は言う。
だが文殊の知恵とは、群れの中の言葉ではなく、
静寂の中に聴こえる真理の声だ。

卯年に生まれた者は、文殊を守り本尊とする。
彼の光は、迷う心を明らかにし、
学びを深め、道を見失った者に北極星のような導きを与える。

――オン・アラハシャ・ノウ。
その真言を唱えるとき、
文殊の剣は心の闇を裂き、
迷いの霧の向こうから、青い蓮華が静かに咲く。

そしてその花弁の上で、
菩薩は微笑む。

「智とは、静けさのうちにあるもの。
すべてを知ろうとする心を超えて、
ただ、今を見よ――それが真の明である。」

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