旅立ち
私の瞳が ぬれているのは
涙なんかじゃないわ 泣いたりしない
この日がいつか 来る事なんか
二人が出会った時に 知っていたはず
私の事など もう気にしないで
貴方は貴方の道を 歩いてほしい
さよならいわずに 笑ってみるわ
貴方の旅立ちだもの 泣いたりしない
言葉はいらない 笑顔をみせて
心の中の貴方は いつもやさしい
私は泣かない だって貴方の
貴方の思い出だけは 消えたりしない
私の瞳が ぬれているのは
涙なんかじゃないわ 泣いたりしない
旅立ち
駅のホームに冷たい風が吹いた。
冬の陽が傾きかけた午後。彼の背中が、改札の向こうへとゆっくりと遠ざかっていく。人混みに紛れながら、でも私の視界の中では不思議なくらいはっきりと浮かび上がっていた。
私は泣いてなんかいない。そう、自分に何度も言い聞かせた。
初めからわかっていた。二人が出会ったあの日、心のどこかで、いつかはこの日が来ることを。奇跡のような出会いだったからこそ、それが永遠には続かないと、どこかで知っていた。
彼が東京へ行く話をしたとき、私は頷いた。彼の夢の話を、私は何度も聞いてきたから。支えるつもりだった。最後まで、笑顔で見送るつもりだった。
「元気でね」なんて、言わなかった。そんな言葉は、かえって別れを際立たせる気がした。だから私はただ微笑んだ。
彼がこちらを振り返った。ほんの一瞬だったけど、私には十分だった。その目に浮かんだ不安と決意を、私は見逃さなかった。
心の中で、そっと言う。
――もう私のことは気にしないで。貴方は貴方の道を歩いて。
彼が改札を抜けた瞬間、私は瞳の奥に温かなものを感じた。でも、泣いたりしない。これは彼の旅立ちなのだから。
私の胸の奥にある、数えきれないほどの記憶――駅までの道、雨の日の公園、映画館で手をつないだ時間。どれも色褪せない宝物。彼がいなくなっても、消えることはない。
彼が見えなくなったホームに、一人立ち尽くしながら、私はもう一度、静かに笑った。
――私の瞳がぬれているのは、涙なんかじゃないわ。
心からそう思えた。




