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承知しました。
それでは、小説形式で「第一章:揺らぐ信の谷」を丁寧に描写いたします。


第一章 揺らぐ信の谷 ― Saddhāの試練

山を下りたその先に、霧深き谷が広がっていた。谷は静かで、美しかった。だが、どこか息苦しい空気が漂っている。草木の色も沈み、人の気配はあっても、笑い声ひとつ聞こえない。

修行者トウマは、しばらく迷った末、小さな村へと足を踏み入れた。そこには、干からびた井戸と、閉ざされた家々。そして、人々の目に宿る、どこか諦めの色。

「仏なんて、いないさ……」

すれ違いざま、老人がぽつりとつぶやいた。続けて言う。

「疫病が流行ってから、ずっとこのままだ。祈っても、経を読んでも、誰も助かりはしなかった」

村の中ほどに建てられた小さな堂には、かつての祀りがしめされた仏像があった。今は苔むし、供物もない。ただ、雨に濡れた灰色の像が、沈黙のなかに立っている。

トウマは、その前に座り込んだ。自分は、果たして何を信じてきたのだろう。仏は本当に、この世の苦しみに応えてくれる存在なのか。

「……仏よ、なぜ沈黙を保つのですか。私の信は、ただの独りよがりだったのですか」

そうつぶやいたとき、どこからか細い声が聞こえた。

「その石……仏さまの涙なの?」

振り返ると、盲目の少女が立っていた。目は見えないが、表情はどこか優しげで、澄んでいた。
トウマはそっと頷いた。「ああ、これは信の石……仏道のはじめに授かったものだ」

「ねぇ、お兄さん。わたしの中にも、それ、あるのかな」

少女は目の見えない手で胸に手を当てた。そして、そっと微笑んだ。

「お母さんが言ってたの。仏さまは、見えなくても、心の中にいるって。わたし、それ、信じてるよ。だって……見えないものが、いちばん大切なこともあるでしょう?」

その言葉に、トウマの胸がゆっくりと熱くなった。彼はふと、かつての師の言葉を思い出す。

「信とは、盲目的に信じることではない。苦しみの中でなお、信じ続けようとする、その意志にこそ、仏は宿るのだ」

トウマはゆっくり立ち上がった。そして、仏像の前に掌を合わせる。

「見えずとも、聞こえずとも、私はなお、信じる。苦しみに沈む人々の中にこそ、仏の光はあると」

そのとき、不意に風が吹いた。仏像の上の埃がさらりと舞い、柔らかな光が差し込む。
祠の屋根から漏れた光が、仏の顔を照らし、まるで微笑んでいるように見えた。

トウマは、信の石を懐にしまい、深く一礼した。そして、谷を後にした。

少女の声が、背後から届いた。

「ねぇ、お兄さん。ありがとう。……仏さま、きっと、見てるよ」

その声を胸に刻み、トウマは次の地へと向かう。
信の力──それは、外の像に宿るのではない。苦しみの中でそれでも信じようとする、心の奥に芽生える光。
その光は、今も彼の歩みを照らしていた。


ご希望があれば、次の章「第二章:燃え尽きぬ火 ― 精進の試練」へと続けて執筆可能です。続きをご希望されますか?

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