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静寂の彼岸 ― 阿那含

 

風は 止んでいた
いや 風という感覚が消えた
境界は もうどこにもなく
ただ 起きている

 

鳥の声が 響いている
遠くでもなく 内でもない
名づけようとして やめた
言葉は 遅れてくる
外と内の 境はほどけ
触れる前に 消えていく
“感じている誰か”さえ
見つからないまま

 

何も起きない この静けさに
疑いは もう生まれない
波は立つが 掴めない
通り過ぎるだけ
欲も 怒りも 消えてはいない
だが 触れることもない
燃えているのに 燃やされない
そのまま ほどけていく

 

何も起きない それでいい
触れないまま すべてが過ぎる
“いる”という影だけが残り
それさえ 揺らぎはじめる

師はただ そこに在り
見るでもなく 見ていた
問いは生まれ 形を持たず
すでに ほどけている
身体はただ 動いている
思考もまた 浮かんでは消える
そこに関わる余地はなく
誰のものでもない

 

「何も起きません」
その言葉に 揺らぎはない
失うものも 得るものもなく
ただ 静けさがある

 

「“いる”という想いが まだあるな」
その一言が 残滓を照らす
薄く漂う 自己の気配
触れれば消える 霧のように

 

触れない
波は立つが もう乗らない
“私”は薄れ
その意味さえ ほどけていく
消えるのではない
消えるという概念が消える
の影さえ
静寂に 溶けていく

 

音はない
だが 失われてもいない
ただ――
在る

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