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ゆえに――守護神を持て。

夜の山寺に、ひっそりと鐘の音が鳴り響いた。

静寂は深く、まるで世界が息を潜めているかのようだった。
灯された一本の蝋燭。その揺らぎを前に、青年は座していた。

師・千導が口を開く。

「……いいか。世に流布されている供養は慰めに過ぎぬ。
だが、本来の供養とは――成仏そのもの。
生者を覚醒へ導き、死者を解脱へ送る法……
それが仏陀の成仏法だ。」

青年・真輝は静かにうなずいた。
彼はずっと感じていた――生者の悩みの背後には、
名もなき声なき霊たちの影が寄り添っている、と。

千導は続けた。

「仏陀は、生きている者のための成仏法と、
亡者のための成仏法、この二つを示された。
だが根は同じ――因縁を断ち、迷妄を滅し、真理へ帰す法だ。」

炎がゆらりと揺れる。
それと同時に、青年の背後の空気がわずかに重くなる。
まるで、見えざるものが耳を傾けているかのように。

「生きて修行できぬ者――
死者は自ら解脱できぬ。
ゆえに導師のみが、その因縁を断ち、覚りを廻向する。
それが死者の成仏法だ。」

青年の胸に、ひとつの問いが浮かぶ。

(では……ただ祈るだけの供養や作法は、何になるのだろう。)

千導はその心を読むように呟いた。

「慰霊は慰め。
だが霊障は消えぬ。
解脱なき供養は終わらぬ鎖だ。」

青年は息を呑んだ。

師はさらに言葉を落とす。

「ゆえに――守護神を持て。
これは第三の守護法。
生者と死者、双方の道を守り導く存在を得ること。
光なき魂を抱えた者にこそ、守護の神は降りる。」

その瞬間、山寺の空気が変わった。
冷たい息が青年の背を撫で、直後には温かな気が胸に満ちる。

まるで、氷と炎――両極の息が交互に身体を駆け抜けるかのようだった。

千導が低く唱え始めた。

「息吹き永世の法……古代の神々が用いた呼吸。
寒熱自在の息を以て、病を癒し、霊障を祓い、
神人合一へ至る秘術。」

青年の呼吸が変わる。
吸うたびに闇が消え、吐くたびに光が広がるようだった。

炎が高く揺らぐ。

師の声は静かに決定を告げた。

「今日からだ、真輝。
お前は――守護神を宿す者となる。」

青年の胸に、見えざる光が降り注ぐ。

そして――
その光を包むように、古代から呼ばれた気配が静かに姿を現した。

――彼の守護が、今、目覚めた。

 

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