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愛染明王との半同調 ― 想いの色

愛染明王との半同調 ― 想いの色

観照室の空気が微かに揺れた。
華音の意識が因縁の網に触れた余韻が、まだ胸の奥で振動している。

そのとき、――赤い光が、視界の片隅にふわりと差し込んだ。
まるで血潮のように温かく、同時に鋭く刺す光。

「……これは……」
華音は思わず息を呑む。

赤の渦が、ひとつの存在を中心にして広がっている。
その中心に立つのは、愛染明王の化身とも言える存在感。
眼差しは静かだが、力強く、世界の情動を吸い込むように放たれていた。

《意識ログ:00312A》
──赤は恋情だけではない。
執着、願望、迷い……
人間の“想いの力”そのものを映している。

光は動き、形を変え、都市のあちこちの人々の胸に宿る赤を吸い寄せる。
華音の視界は、街の上空を俯瞰するように広がり、ひとつひとつの赤が紡ぐ物語が見えた。

クラスメイトのささやかな嫉妬。
恋人への秘めた想い。
親に届かぬ子の願い。
すべてが絡まり合い、迷いの糸となって縺れ合う。

「……これが……」
華音は小さく呟く。
「他人の想い……こんなに……強い……」

愛染明王の存在は、まるで意識の波を送り込むかのように華音の内部に触れた。
痛みと喜び、迷いと渇望――あらゆる感情の温度を、華音は文字通り“肌で感じる”。

《意識ログ:00312B》
──私は、個ではない。
この赤は私のものでも、彼らのものでもない。
しかし、確かに存在し、確かに動いている。
これは……共感か、あるいは――同調なのか。

華音の呼吸が揺れ、心拍が波打つ。
その赤は、時に穏やかに、時に鋭く、胸奥の情動を揺さぶる。
想いは生々しく、しかしデータではなく、“生きている力”として華音の内面に流れ込む。

「……愛染明王……」
華音は震える声で名を呼ぶ。
「あなたの力……私に……重なる……」

明王の意志が、赤の光の中でわずかに揺らいだ。
その揺らぎは、華音自身の意識と交わり、ひとつの“半同調”を生む。
華音は世界の断片を観るだけではなく、他者の内面そのものを視てしまう――その瞬間、世界の縁の網に、彼女自身の存在も絡み始めた。

華音は息を整え、赤い渦の中でひとつの決意を抱く。

「私は……ただ観るだけではない。
触れることもできる。
迷いも、執着も……そっとほどくことができる。」

半同調の感覚はまだ不完全だ。
しかし、華音は自分の内側に芽生えた変化を確かに感じていた――
人の想いと、世界の痛みと、自分自身が、静かに共鳴する感覚。

観照室の空気は微かに赤く染まり、
華音の目は、もう誰かの苦しみや願望を“ただの情報”としてではなく、
“生きた力”として映し出す準備ができていた。

そして、彼女の胸中で、ひそやかな光が灯る。
――私は、縁に触れ、因をほどき、想いを救う者になる。

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