チャクラ覚醒譚 ― 光と内なる臓の書
夜明け前の静寂、彼の胸は確かに鼓動していた。
それは単なる生命の拍動ではなかった。
目を閉じると、体の奥で七つの星がわずかに瞬いているのが感じられた。
古より伝わる名――チャクラ。
近代の医師はそれを内分泌腺と呼び、
古の行者はそれを神の門と呼んだ。
「肉体とは、光の器である。」
師の声が虚空から響いた。
「それぞれのチャクラには、臓腑と魂を結ぶ道がある。
ホルモンが血に流れ、気が霊に流れるのだ。」
第一の門 ムーラーダーラ ― 英雄の根
その中心は、性腺と腎のあたり。
大地に根づくような赤き光が、彼の尾骨の底でゆらめいた。
覚醒の瞬間、彼の肉体は熱を帯び、恐怖は消え去った。
勇気と生命力が爆発する――
それは“英雄のホルモン”と呼ばれるもの。
死さえも笑い飛ばすほどの闘志が、血の奥で燃え上がる。
しかし同時に、激烈な欲望の奔流が襲う。
師は言った。
「その炎を昇華せよ。
肉欲を智の炎――オージャスへと変えるのだ。」
第二の門 スヴァーディシュターナ ― 闘いの水輪
下腹に漂う橙の光。
そこは副腎の座、闘争の中心。
怒りと勇気のホルモンが混ざり合い、
彼の肉体は三倍の力を得た。
三日三晩、眠らずとも疲労を知らず。
病は退き、皮膚は輝き、目は鋭く光を放つ。
だが師は警告する。
「力は毒にもなる。
水を制せぬ者は、己に溺れる。」
第三の門 マニプーラ ― 太陽神経叢
臍の奥――そこに黄金の車輪が回転した。
医学では“ソーラー・プレクサス”、
すなわち太陽神経叢と呼ばれる場所。
胃、肝、膵、副腎、腸――
それらすべてをつなぐ光の網。
この神経叢が目覚めるとき、
人は己の臓器の声を聞く。
血流が語り、細胞が祈る。
やがて彼は悟った。
「体とは、ひとつの宇宙である」と。
第六の門 アージュニャー ― 千眼の知
眉間に、蒼白い光が射した。
それは思考を超えた思考、
言葉を介さぬ理解だった。
見たことも聞いたことも、
すべて一瞬で記憶に刻まれる。
彼の知性は、演繹と帰納を超えて跳躍し、
純粋な創造へと化す。
師は微笑む。
「その目が開けば、世界の本質はただ“光”であると知る。
それを仏陀は“常楽我浄”と名づけた。」
第七の門 サハスラーラ ― 頭頂の光明
最後の門は頭頂、松果体と視床下部の間にある。
彼が深い瞑想の中でその一点に意識を集中したとき、
脳髄にまばゆい光が走った。
それは内なる太陽――ムルダ・ジョーティス。
サハスラーラ・チャクラが開く刹那、
光は天に突き抜け、彼の肉体は無重力となる。
時間も空間も消えた。
「これが、聖霊とひとつになるということだ。」
師の声はもうどこからともなく響いていた。
頭頂の光は花のように開き、
千の花弁が宇宙と溶け合う。
その瞬間、彼は人ではなく、光そのものとなった。
仏像の頂に盛り上がる“肉髻(にっけい)”――
それはこの覚醒の象徴である。
彼は理解した。
チャクラとは単なる幻ではなく、
霊と肉、知と信、医学と覚醒を結ぶ聖なる中枢なのだ。
光が収まり、彼は静かに息を吐いた。
身体のすべてが調和していた。
勇気は智に変わり、欲は慈悲となり、
血と魂は同じリズムで脈打っている。
「七つの門を統べる者、
その人を、人は“覚者”と呼ぶ。」
師の声は、風に溶けていった。




