静寂の森を抜ける風が、白い光をまとって流れていった。
その風の向こう、青蓮の上に一頭の白象が立っていた。
象の肌は月光のように輝き、六本の牙は時の彼方を貫く。
その背に座すのは――普賢菩薩。
彼の名は「サマンタバドラ」、すなわち“普く賢き者”。
文殊が智慧の剣なら、普賢は行の翼。
悟りの光を掴み取っただけでは足りぬと知り、
その光をもって世界を照らすために歩み続ける者。
釈迦の右に侍して、衆生の心に寄り添い、
ときに独り、白象に跨り、
夜明けの空を渡っては迷える魂のもとへ現れる。
どこにでも現れ、あらゆる命を救う――それが普賢の誓い。
彼はただ説くのではなく、行う。
文殊が真理を示すなら、普賢はその真理を地上に下ろす。
手を差し伸べ、涙を拭い、沈黙の中で愛をもって導く。
女性をも救済するという『法華経』の教えが世に広まると、
普賢はさらに柔らかな微笑をたたえ、
苦しみに沈む人々の胸にそっと花を置いた。
それは、誰もが悟りの道を歩めるという慈悲の証。
白象の足が大地を踏みしめるたび、
光の波が地を包み、闇は静かにほどけていく。
延命の祈り、息災の願い、幸福を増す光――
普賢延命菩薩として、その慈悲は時を越えて広がっていった。
辰と巳に生まれた者よ、
この菩薩を守りとせよ。
その背に乗る白象の行く先には、
必ずや、真の安らぎが待っている。
そして、静かに響く真言――
オン・サンマイヤ・サトバン
その音は、世界を包み、
行いの智慧を灯す。
普賢は言葉なくして語る。
すべての存在に向かって――
「ただ、慈悲を生きよ」と。




