――虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)――
夜の空は、ひとつの大いなる蔵のようだった。
その蔵には、誰の心にも届かぬほど深く、果てしない智慧と慈悲が眠っていた。
彼の名は、虚空蔵。
宇宙の静けさそのものを衣とし、星々の光をその胸に宿す菩薩である。
人が願い、苦しみ、迷うとき――
虚空蔵はその蔵の扉をそっと開き、
ひとしずくの光を取り出して人の胸に落とす。
それは智慧となり、記憶となり、
時に勇気や希望の形をとって、闇を照らす。
かつて、弘法大師・空海もまた、その光を求めた一人であった。
「オン・バサラ・アラタンノウ・オン・タラク・ソワカ――」
百万遍の真言が、風の中に響き渡る。
やがて、その声は宇宙とひとつになり、
大師の内なる虚空の蔵が開かれた。
無限の記憶と智慧が流れ込み、
彼は“法の言葉”を自在に操る者となったという。
五方に広がる虚空蔵たちは、五つの光の如く、
それぞれが金剛界の五仏の徳を映す。
東に知恵を、西に福徳を、南に除災を、北に増益を、
そして中央に、あらゆるものを包み込む慈悲を。
人々は祈る。
成績を上げたい者は、記憶の扉が開かれるようにと。
商を営む者は、福徳の宝珠が光るようにと。
芸を磨く者は、技の剣が冴えるようにと。
虚空蔵は微笑みながら、彼らの願いを静かに聞く。
そして、その右手に握る智慧の剣で迷いを断ち、
左手の如意宝珠から、願いの光をそっと放つ。
その姿は、金色の光をまとい、
五仏の宝冠を戴いた一面二臂の菩薩形。
無限の空を背にして、
今もなお、すべての心の蔵を見つめている。
――丑・寅の年に生まれた者よ。
虚空蔵はそなたの守護である。
恐れを手放し、己の心を澄ませば、
その胸の奥にもまた、ひとつの蔵があることを知るだろう。
そしてその蔵こそ、
虚空蔵菩薩が宿る、永遠の智慧の座なのだ。




