小説風
道場の静寂が、漆黒の闇を抱いた夜の空気のように彼の胸に染み込む。畳の上に座るトシキは、呼吸を整え、心をひとつに結びつけようとしていた。師の声が、闇を裂くように響く。
「この法は、容易に到達できるものではない。しかし、歩む者には宇宙と自己の一体を体得する道が開かれる」
師は静かに手を掲げ、トシの額に軽く触れる。瞬間、胸の奥に微細な震えが走った。思念が流れ込む感覚――師から弟子へ伝わる“生きた意志”の相承だ。頭の奥で、間脳が静かに開き、有限な思考を超えた広大な意識の海と接続する。彼は言葉にならぬ感覚に包まれ、宇宙と自己の境界が曖昧になるのを感じた。
「まずは地神足。心身を安定させよ」
師の声に従い、トシは呼吸と姿勢を調えた。背骨が天に伸びる感覚と共に、身体の芯から力が湧き、心も静かに落ち着いていく。次に水神足の修行。感覚と情動の流れに意識を向け、柔軟に調整する。湧き上がる不安や焦燥が、まるで川の水のように静かに流れ去った。
「火神足だ」
彼は思念を一点に集め、煩悩や執着を炎の中に焼き尽くす。心の中の雑音が次第に澄み、透明な静寂が広がる。
最後に風神足。間脳の奥に意識を広げ、宇宙の網目のような存在の連関に触れる。トシの視界は消え、体も消え、ただ宇宙の一部として漂う感覚だけが残った。
畳の上に戻ると、彼の胸には静かな余韻が満ちていた。師の声が最後に告げる。
「これが、思念の相承と四神足法だ。体得する者は少ない。しかし、確かに道は開かれる」
トシは深く息を吸い、また新たな一歩を踏み出す覚悟を胸に刻んだ。




