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クンダリニー・パールの授与

クンダリニー・パールの授与

修行に入るその日、導師は静かに弟子を呼び寄せた。
「チャクラの道を歩むにあたって、まず授けねばならぬものがある」

導師の掌の上に置かれていたのは、ベージュとピンクとアイボリーの光をまじえた、小さな真珠だった。直径は一センチに満たず、しかしそのつややかな輝きは、ただの宝石とは思えぬ威光を放っていた。

「これは《クンダリニー・パール》――。世俗の者は魔法のようだと訝しむかもしれぬ。しかしこれは、まやかしでも虚言でもない。人体に秘められた力を呼び覚ます、真実の珠なのだ」

弟子は目を凝らした。その珠が、まるで心臓の鼓動に合わせるかのように微かに脈打って見えたからだ。

導師はゆるやかに語り始めた。
「著名な科学評論家ブルース・ブリベンが書き記している。人体には三つの“魔法の化学物質”がある――ホルモン、酵素、そしてビタミンだと。これらは驚異的な効力をもち、時に破壊的な力ですら制御する。均衡を保つゆえに、我らは生きていられる」

弟子は息をのんだ。導師の声は、書物の言葉を超えて、
「ビタミンは外から取り入れねばならぬ。だが、ホルモンと酵素は人の内から生まれるべきもの。クンダリニー・パールは、その門を開く鍵となる。珠を受け取り、己が身に宿すがよい。やがて、必要とするホルモンを自らの意思で呼び出し、驚異の力を得るであろう」

弟子はそっと両の掌を差し出した。珠が置かれた瞬間、まばゆい光がひらめき、胸の奥で熱い波動が脈打ちはじめた。
――これが、チャクラの道を歩み出す第一歩なのだ。
掌に載せられたパールは、しばし沈黙のうちに輝きを放っていた。弟子は導師の言葉に従い、目を閉じ、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。

すると、不思議なことに――。
珠の光が、皮膚を透けて胸の奥へと溶け込み、呼吸とともに体内へ染み渡っていくのを感じたのだ。冷たい液体が流れ込むようでもあり、また温かな炎が灯るようでもあった。

やがて、下腹の奥――丹田のあたりが、柔らかな光に包まれた。
そこから細い糸のようなエネルギーが、背骨に沿ってゆっくりと昇っていく。尾てい骨、腰椎、背中の中心……節をひとつひとつ確かめるように進むたび、体は内側から淡い震えに満たされた。

「導師……これは……?」
思わず声が洩れる。

導師は静かにうなずいた。
「それが最初の息吹だ。珠はただの触媒にすぎぬ。目覚めているのは、そなた自身の力だ」

エネルギーは胸へと到達し、弟子の心臓を内から打ち鳴らした。鼓動は速まらず、しかし深く、ゆるぎなく響き渡る。そのたびに、全身に生きた光が広がり、腕や脚の末端にまで温もりが流れ込んでいった。

不意に、心の奥底に眠っていた感情が泡のように浮かび上がった。喜びと恐れ、渇望と安らぎがいっぺんに押し寄せ、弟子は涙をこぼした。

「これは……私の……内に、もとから在ったもの……?」

「そうだ」導師の声は深い森の響きのようだった。
「珠は道を示しただけ。今感じている震えは、己が本来の生命の鼓動。クンダリニーは目覚め、やがてチャクラを一つずつ開くだろう」

弟子は両掌を胸に重ね、震える呼吸の中で確信した。
――この道はもう、後戻りできぬ。

第一チャクラの覚醒

光の糸は、ゆるやかに背骨を巡りながら、再び下方へと降りていった。尾てい骨の根もと、生命の座と呼ばれる深奥に、小さな炎のような赤い光が宿っているのを弟子は感じた。

それはこれまで閉ざされ、忘れ去られていた「門」のようだった。
パールの力は、その門を叩き、静かに開くよう促している。

最初は痛みに似た抵抗があった。まるで錆びついた扉を押し広げるかのように、根源のエネルギーは固く、動こうとしない。弟子の体は震え、汗が滲み、呼吸は乱れた。

だが、導師の声が闇を貫いた。
「恐れるな。そこは命の根であり、すべての始まり。第一の門を開けば、地とつながり、存在そのものが安らぐ」

弟子は歯を食いしばり、再び息を深く吸った。
その瞬間――。

赤い光が爆ぜるように広がり、下腹から大地へと根を張る感覚が全身を貫いた。
自らの身体が地球そのものと一体化し、岩盤の奥深くへ根を下ろしているのを、確かに感じた。

重さが消え、同時に確かな安定が訪れた。
大地の鼓動がそのまま弟子の鼓動となり、血潮と大地のマグマが混じり合うように熱を放つ。

弟子の口から、言葉にならぬ叫びが洩れた。歓喜と恐怖と解放の声が重なり合い、洞窟の奥で反響する。

導師は静かに告げた。
「第一チャクラ――ムーラーダーラは開かれた。今そなたは地に根ざした。存在は揺らがず、命は恐れに縛られぬ。これが覚醒の始まりだ」

弟子は涙で濡れた顔を天に向けた。
胸の奥から、確かな実感が込み上げてくる。
――私は、ここに在る。私は、地と一つである。

第二チャクラ ― 感情の水脈の覚醒

大地とひとつになった弟子の体は、なおも震えていた。根源の力が解き放たれたことで、内奥に眠っていた次の扉が静かに目を覚まし始めていた。

その扉は、下腹の奥――臍の下あたりにあった。そこから、澄んだ水が湧き出すような感覚が広がっていく。

最初はささやかな滴だった。だが、ほどなくして小川となり、やがて湖面が揺れはじめる。弟子の胸に、かつて押し殺してきた感情が次々と浮かび上がった。

幼き日の寂しさ。愛を求めて叫んだ夜。失ったものへの悔恨。
そして同時に、言葉にならぬほどの歓喜、柔らかな慈しみ、まだ見ぬ未来への期待。

心の湖は一瞬にして波立ち、弟子は耐えきれずに声をあげた。
「導師……感情が、あふれて止まりません……!」

導師は静かに答える。
「それでよい。水は流れを拒めば腐る。だが流せば澄みわたり、命を潤す。恐れるな、すべてを抱きとめよ」

弟子は涙を流しながら、その言葉に身をゆだねた。
すると、不思議なことに、心の湖は次第に穏やかさを取り戻し、透きとおる鏡のように静まり返った。

その瞬間、全身を潤すような快い温もりが広がり、身体が水そのものになったかのようにしなやかに揺れた。
愛も、悲しみも、渇望も、すべては同じ水の流れの一部だった。

導師の声が、その湖面に一条の光を投げかける。
「第二チャクラ、スワディシュターナは開かれた。感情はもはや敵ではなく、そなたを潤す水脈となった。これからは流れを恐れるな。流れるがゆえに、生は豊かになる」

弟子は目を閉じ、水面の上に浮かぶような心地で深い呼吸をした。
――地に根ざし、水に抱かれ、私はいま、命の流れの中に在る。

 

 

 

 

 

 

 

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