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東京、深く静かに燃える

 

 

『東京、深く静かに燃える』

第一章 壁のむこう

東京の裏通りは、午後の陽が届かない。
夏の熱気が地面から立ちのぼり、コンクリートの壁にじっとりとまとわりつく。

奈央は、その路地で足を止めた。制服姿の少女――けれど、瞳にはどこか乾いたものがあった。
目の前を、少年たちの一団がすり抜けてゆく。笑っている。だがその笑いの裏に、張りつめた空気がある。
彼らは何かを探している。獲物を。

一方で、街の表側では、金持ちたちが日焼けした肌をプールサイドでさらしていた。
仕事も、家も、愛も、どこか遠い話。
その頃、健太は職安のポスターを見上げていた。履歴書の束が、汗でにじんでいる。
彼はまだ若かったが、もう何度も「不採用」という言葉に慣れていた。

彼らはこの街の「影」だった。
そして誰もが知っていた――この都市は、脆く、冷たく、そして巨大すぎる。

第二章 東京の下で

深夜、壁のむこうからベッドの軋む音が聞こえる。
床の下ではTVが怒鳴っていた。誰も観ていないのに。

奈央は天井を見つめていた。
「いつまで持ちこたえられるかな」
そんな声が心の中で何度も反響する。

東京は無数の人々を呑み込む街だ。
生まれたのは高速道路の下。死ぬのは地下鉄の上。
“それがこの街の現実なんだ”と、彼女は思っていた。

だが――彼女の心の片隅に、まだ微かな祈りがあった。

第三章 叫びを超えて

満員電車の中、健太は誰とも目を合わせないようにしていた。
疲れ果てた顔が並ぶその空間で、自分がどこに向かっているのか、もはや誰にもわからなかった。

学校では、子供たちが押しつぶされていた。
叫び声は、誰にも届かない。
ネオンの下では、孤独が日々取り引きされ、年老いた人々は目を伏せ、何も語らない。
それが東京。希望と絶望が入り混じる、この街。

窓のむこうでエンジンが唸り、頭上にはジェット機が低く飛ぶ。
この都市のどこかで、きっとまだ誰かが光を求めている。

最終章 東京、光を

ある夜、奈央は健太と出会った。
偶然だった。だが、その夜、ふたりは言葉を交わさなかった。
ただ、同じ夜空を見上げていた。
光があった。星は見えなかったが、遠くで工事灯が輝いていた。

「この街に、希望はあると思う?」と彼女が言った。
「…わからない。でも、塗りつぶされた明日でも、自分の色で描いてやりたいとは思ってる」
健太の声は小さく、けれど確かだった。

東京は巨大な迷宮だ。人を追いたて、引き裂き、時に捨てる。
けれど――誰かと出会うことが、微かな火を灯すことがある。

「時代のせいにしないで」
「光を見つけさせて」

ふたりは歩き出した。東京という街のなかで。
TOKYO。
その闇の中に、まだ見ぬ光を信じながら。

 

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