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旅立ち ― 真理の種を携えて

旅立ち ― 真理の種を携えて

鹿野苑の朝――
やわらかな光が草を濡らし、静かな風が、僧たちの衣をそっと揺らしていた。

五人の弟子たちは、ブッダの前に整列していた。
彼らの目は、かつてのような迷いや疑いに濁ってはいなかった。
それぞれが確かな光を胸に宿し、今まさに新たな道を歩みだそうとしていた。

ブッダは、彼らを一人ひとり見渡した。
そのまなざしは、限りなく深い慈しみに満ちていた。

「比丘たちよ。」

静かな声が、風に乗って広がる。

「これより、汝らはそれぞれの道を行き、
世の人びとにこの真理を伝えなさい。
疲れ果てた者たちに、希望を示しなさい。
苦しみに沈む者たちに、道を示しなさい。」

「だが、行く先々で、名誉を求めてはならない。
富を求めてはならない。
ただ、清らかな心で、慈悲の心で、
真理の雨を注ぎなさい。」

弟子たちは、無言でうなずいた。
その胸には、たしかな誓いが宿っていた。

ブッダはさらに続けた。

「行きなさい。
ふたりと連れ立つことなく、
それぞれ別々の道を選び、
あまねく世に、法(ダルマ)の光を広げるのだ。」

地平線の彼方まで広がる未知の世界。
そのすべてに、まだ苦しみの闇が満ちている。
だが、もう恐れることはなかった。

彼らの手には、火があった。
ブッダから授かった、苦しみを滅する智慧の火が。

旅立つ弟子たち

コンダンニャは、東へ向かった。
河に沿って、農村をたずね、人びとに法を説いた。

バッディヤとアッサジは、それぞれ南と北へ。
乾いた大地を歩き、牛飼いにも、商人にも、老人にも、子どもにも、
ただ分け隔てなく、真理を語った。

バースパとマハーナーマは西へ向かった。
彼らの言葉は、心を干上がらせた人びとに、まるで潤いをもたらす雨のようだった。

「生きるとは、苦しみだ。
だが、苦しみには終わりがある。」

そのたった一言が、
どれほど多くの心に、救いとなったことだろう。

鹿野苑にて

彼らを見送ったブッダは、一人、鹿野苑にとどまっていた。
だが、その心は、旅立った弟子たちと共にあった。

一歩、また一歩、
光は大地に染みわたっていく。

誰も知らなかったこの小さな真理の炎は、
やがて、世界を変える大河となるだろう。

ブッダは、そっと空を仰いだ。
朝陽が、静かに彼の顔を照らしていた。

 

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