求聞持聡明法の秘密
そのときだった。
頭の奥、深部からかすかな音が聞こえてきた。——音響だ。
それは耳で聞くというより、脳の底で鳴っているような、まるで大地の下から伝わる地鳴りのようだった。
私はおずおずと、再びあの求聞持の修法に身をゆだねた。
前回、頭を貫いたあの電撃のような痛みが再び走るのではないかという恐れが、どこかに残っていた。
おっかなびっくりとでも言うべき慎重さで手印を組み、呼吸を合わせてゆく。
だが——今回は、違った。
痛みはまったくなかった。
ただ、静かに、深く、心の奥底に明星がふたたびまたたいた。
私の脳に、何かが起きている。
それは確信だった。
では、その「何か」とは一体何か? 私は自問した。
それは、ひとつの化学的ショックだったのだ。
私の脳の中枢、間脳の奥深く、「視床下部」で変化が起きていた。
そう、すべての鍵は、この視床下部にあったのだ。
これこそが——秘密の原点。
私が以前の章で、内分泌腺の構造について説明し、図まで用いたのは、このことを明らかにするためだった。
専門家たちには、素人の暴挙に見えたかもしれない。
だが、私は臆することなく、それを書いた。
なぜなら、真実を知ってほしかったからだ。
視床下部こそが、すべての内分泌腺を統べる司令塔。
そしてここが、古代ヨーガが語ってきた「プラーマ・ランドラ(梵の座)」であり、
すなわち——サハスラーラ・チャクラなのだ。
世の多くのヨーガ指導者たちは、それを「松果体」であると語ってきた。
だが、それは錯覚だった。
たしかに松果体は視床下部の近くにあり、重要な役割を果たす。
だが、本質はそこではない。
真のサハスラーラ・チャクラは——視床下部なのだ。
この視床下部は、下垂体系を通じてすべての内分泌器官を制御している。
制御の手段は——神経。
ゆえに、この一点には重要な神経線維が無数に集まっている。
私は、古代ヨーガの秘術のなかから、この視床下部を活性化させるための特殊なムドラーとポーズを創案した。
それにより、強い物理的圧力をここにかけ、さらに同時に、強烈な念力を集中したのだ。
百日間、私はひたすらこの一点に、肉体と精神の両面からエネルギーを注ぎ込んだ。
その結果——視床下部に宿る神経のうち、いくつかが目覚めはじめた。
この現象は、チベット密教に限られるものではない。
すべての宗教が最終的に求める究極の境地——至上なる領域に至るためには、
肉体、精神、そして霊性の三つの方法が、必ず必要であると私は確信している。
しかし、それだけでは——足りない。
足りなかったものがあった。
それは、**ジャパス(念誦)**という練行である。
声に出して唱えるのではない。
心の奥で、真言を繰り返し繰り返し、千度、万度、百万度、唱えるのだ。
その響きが、脳髄を満たすとき、視床下部の奥底が震え、真の明星が灯る。
それこそが——求聞持聡明法の核心であり、
この世のあらゆる秘法の奥義であったのだ。
求聞持法の九種の印明。
古代ヨーガに伝わる秘奥の呼吸法。
さらに、それらを超えて私自身が創り上げた手印とポーズ。
それら三つの術が、一つの流れとなって私の肉体と脳髄を変容させつつあった。
チャクラの開発も、順調に進んでいた。
「機は熟しつつある」
——私の六感が、そう告げていた。
まどろみのような感覚が全身を包む。
だが、それは眠りではなかった。
痺れ。
めまいに似た失心の予兆。
そして、我を忘れた一瞬——その刹那。
私は、声をあげていた。
「うあっ……!」
脳髄の一角に、電流が走った。
稲妻だ。まるで落雷。
目の前を、紫の閃光が駆け抜けた。
次の瞬間——
視界が、暗転した。
真っ黒だ。
フラッシュの残像のような黒。
「失明したのか——?」
その言葉が、脳裡をよぎったそのときだった。
頭の奥。
遥か内奥の深みに、ぽっかりと灯がともったのだ。
かすかに、ゆっくりと——脈と同じリズムでまたたいている。
それは、かつて山中に籠り、暁の空に見上げたあの明星に似ていた。
冷たく、黄ばみがかった白。
「……これだ」
私は立ち上がり、力いっぱい叫んだ。
「これが——明星だったのか!」
あのとき山で見上げた光は、外にではなく、私の中にあったのだ。
私は、ついにその秘密を発見したのだった。




