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怒れる戦神と笑う福の神

怒れる戦神と笑う福の神

その昔、神々の世界に恐れられる一柱の神がいた。名をマハーカーラ。ヒンドゥーの戦神であり、破壊を司る存在だった。彼の肌は青黒く、三つの眼が怒りに燃え、複数の腕には武器を構えていた。彼が降り立つところ、戦が起こり、敵はことごとく打ち倒された。

だが、あるとき彼は仏の命を受け、ある天女を降伏させることとなる。その天女こそ、荼枳尼天(だきにてん)。人の生気を喰らう妖しき存在であった。マハーカーラは彼女を打ち倒すべく挑んだ。しかし、戦いの中で彼は気づく――力による支配では、真の勝利は得られぬと。

やがて、彼は武器を捨て、怒りを鎮めた。戦の神から、福をもたらす神へと変貌を遂げる。マハーカーラは名を改め、日本の地に降り立った。彼の新たな名は大黒天(だいこくてん)

大黒天が日本に降りたとき、人々は彼を「だいこく」と呼び、やがて日本の神、大国主命(おおくにぬしのみこと)と同一視するようになった。戦神の面影は薄れ、彼は五穀豊穣と財福の神として信仰されるようになる。

もはや彼の顔には怒りはなく、満面の笑みが浮かんでいた。身にまとうのは戦装束ではなく、ゆったりとした衣と黒い烏帽子。背には福袋を背負い、手には打ち出の小槌を持っていた。その小槌を振れば、富と幸福が湧き出ると言われた。彼が立つのは戦場ではなく、黄金色の稲が波打つ田の上だった。

時が経ち、大黒天は七福神の一柱となった。彼の隣には、釣り竿と鯛を抱えた恵比寿天がいる。一人は大地の恵みを、もう一人は海の恵みをもたらす。二柱の神は、人々の生活を豊かにし、笑顔をもたらした。

そして、大黒天のもとには小さな使いがいた。それは。かつて大国主命を助けた鼠の伝説が、彼の使いとなったのだ。大黒天は笑いながら米俵に腰を下ろし、鼠たちとともに五穀豊穣を見守った。

時代が変わり、人々の暮らしも移ろう。しかし、大黒天の笑顔は変わらない。物を作り、それを分かち合う喜びを忘れぬよう、今日も彼は天の上から見守っているのだ。

(了)

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