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阿閦如来の智慧 The Wisdom of Akshobhya

 

 

阿閦如来の智慧  The Wisdom of Akshobhya

東方の空が仄かに明るみ始める頃、静寂の中に僧院の鐘が響いた。境内に広がる深い青の世界。その中心に、ひときわ荘厳な仏像が鎮座している。

それは阿閦如来──揺るぎなき智慧を象徴する如来であった。

高僧・慧明(えみょう)は、仏像の前に跪き、静かに目を閉じた。彼の心には乱れがあった。修行を重ねるほどに、人の世の煩わしさがより鮮明に感じられるようになり、怒りや迷いが次々と浮かび上がるのだった。

「なぜ私は、些細なことに心を乱されるのか……」

心の奥底で問いかける彼に、仏像の冷たい微笑みが語りかけるように思えた。

「あるがままを映し出すがよい」

ふと慧明は、阿閦如来の右手に目を向けた。地を指し示すその指先は、まるで彼に「真実を見よ」と告げているようだった。

「大円鏡智……」

かすれた声で彼は呟いた。それは、阿閦如来が司る智慧。ありのままの世界を、清らかな鏡のように映し出す心。私たちは怒りや迷いにとらわれ、歪んだ像しか見ていないのではないか。

慧明は深く息を吐き出し、ゆっくりと心を静めていった。阿閦如来の教えは、願いを叶えるものではなく、まず己の心を見据えることの大切さを説いている。揺らぐことなく、ただあるがままを映し出す。それこそが真の智慧なのだ。

気づけば、東の空が黄金色に染まり始めていた。夜明けの光が阿閦如来の姿を照らし、まるで揺るぎない悟りの象徴として輝いているように見えた。

慧明は静かに合掌し、悟った。

「迷いも怒りも、ただ映るがままに──私は、私の心を見据えよう」

そう誓った彼の顔には、もはや迷いはなかった。

 

 

 

 

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