彼の名は大黒天。かつて怒れる戦闘神であり、破壊の権化として恐れられていた存在だ。インドの古代神話の中で彼は、破壊神シヴァの化身「マハーカーラ」として知られていた。青黒い肌に三つの目、何本もの腕にそれぞれ鋭利な武器を携え、戦場では無敵を誇った。その名を耳にするだけで敵は恐怖し、彼に祈る者は必ず勝利を手にすると信じられていた。
だが、時の流れと共に彼の運命は奇妙な転換を遂げる。仏教が伝わる中で彼は密教の中核となり、破壊の神から仏法を守護する神へと役割を変えていった。特に日本において、彼の姿は大きく変貌する。「大黒天」という名は、日本神話に登場する大国主命(おおくにぬしのみこと)の名「大国(だいこく)」と響きが似ていることから、二柱の神が習合されるきっかけとなった。
日本では、大黒天の恐ろしい姿は穏やかで親しみやすい姿に変わった。頭巾をかぶり、背に大きな袋を背負い、小さな打ち出の小槌を握る姿が広く知られるようになったのだ。その袋には無尽蔵の幸福と富が詰まっており、小槌を振るえばあらゆる願いが叶うという。戦いの神から五穀豊穣と財福の神へと役割を変えた彼は、七福神の一柱として人々に親しまれるようになった。
それでも、彼の内にはかつての荒ぶる力が眠っている。その証が三面大黒天像だ。毘沙門天、弁財天、そして彼自身の三つの顔を持つ姿は、かつての戦闘神としての名残を感じさせる。そうした神秘的な一面に、かつての力の片鱗を見る者もいるだろう。
そして今日も、彼を信仰する者たちが唱える。
「オン マコキャラヤ ソワカ」
その響きは、福徳と財福をもたらす祝福の言葉。かつて破壊と怒りを司った神が、今や微笑みと繁栄をもたらす福の神となり、米俵の上に静かに佇んでいる。彼の変貌は、力と慈悲が表裏一体であることを物語っているのだ。
大黒天




