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大事な神経物質

「神経伝達物質(neurotransmitter) 」という言葉は、初めて耳にした方も多いと思います。俗に「脳内ホルモン」とも呼ばれることもある神経伝達物質は60種類以上が発見されており、その役割について徐々に解明が進んでいます。こころの病と治療を理解するうえで、避けては通れないキーワードです。

 

 

神経伝達物質とは、「神経終末から放出され、次の細胞を興奮させる、あるいは抑制する物質」です。図のように放出された後は、隣の神経の受容体に結合し、興奮させたり鎮静させたり、さまざまな反応を引き起こします。人間の思考を司る大脳新皮質だけでも神経伝達物質のやりとりをする場所が、驚くことに2兆(=日本の人口の2万倍)も存在しています。脳内ホルモンの無数のやりとりの結果、人間の複雑な精神活動が可能となっているわけです。

心の働きにとって大切な神経伝達物質は

・セロトニン

・ノルアドレナリン

・ドーパミン

の3種類ですので、まずは、この3つの脳内ホルモンについて簡単にご紹介します。モノアミン・カテコールアミンというグループに分類される上記の神経伝達物質は、心の不調や治療薬の役割を理解するうえで、必要不可欠なキーワードです。

 

セロトニン

1980年代以降の世界の精神医学研究はセロトニンを中心に進められてきた、といっても過言ではないほどの重要な神経伝達物質です。脳内ホルモンとして有名なセロトニンですが、全身のセロトニンのうち、90%は小腸、8%は血液中の血小板に分布しており、「脳にはわずか2%」が存在するに過ぎません。この微量のセロトニンが、心の健康に深く関係していて、「幸福感、不安の軽減、感情コントロール、食欲のコントロール」など、さまざまな役割を担っています。不足するとネガティブ思考が増え、不安になったり、訳もなく悲しくなったりします(悲哀感)。たとえば、うつ病ではセロトニンが低下していることが少なくないため、セロトニンの機能を活性化するSSRI(=選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が治療にしばしば用いられます。セロトニンを増やすためには、朝日を浴びたり、ここちよい運動をしたり、セロトニンの原料となるトリプトファンを含む食物(肉、大豆、乳製品、バナナなど)を取り入れることが大切です。また、セロトニンは、後述のノルアドレナリン・ドーパミンの過剰放出を抑えることで精神のバランスを正常に保つ調整役も果たしています。

<キーワード>ポジティブな気分、不安・緊張の軽減、感情(喜怒哀楽)のコントロール、食欲をコントロール

 

ノルアドレナリン

「意欲、活動性、積極性、思考力、集中力」をつかさどるため、低下すると意欲低下型のうつ状態に陥ります。逆に分泌が過剰となると、攻撃性・イライラ・不安感につながったり、不眠や交感神経症状(動悸・血圧上昇など)につながります。ノルアドレナリンの機能を高める抗うつ薬を用いると、意欲・集中力を高めることが期待されますが、ノルアドレナリンが高まりすぎてもいけません。これについては、他の記事で別途説明させていただきます。

<キーワード>意欲、活動性、積極性、思考力、集中力

 

ドーパミン

合成経路においてノルアドレナリンと近い位置にあるドーパミンは、快楽・意欲・食欲・性欲・探求心・動機づけをつかさどっており、部分的に、ノルアドレナリンと似た役割も担っています。たとえば、うつ病・うつ状態においてドーパミン機能が低下する場合がありますが、食欲低下・意欲低下が起こることで食事が摂れなくなります。逆に、ドーパミン神経系の機能を高める抗うつ薬(少量のスルピリド)を用いると、食欲が回復するのはそのためです。その一方、過剰な分泌は様々な問題を引き起こします。たとえば、中脳辺縁系と呼ばれる神経系におけるドーパミン過活動は、幻覚・妄想につながりますし、快楽と関係しているため、繰り返し過剰に分泌されると、ギャンブル・買い物・アルコール・薬物など依存症を誘発する恐れもあります。

<キーワード>快楽・意欲・食欲・性欲・探求心・動機づけ

 

神経伝達物質のまとめ

私たちのこころは、複雑に入り組んだ神経細胞同士が放出する、神経伝達物質の影響を強く受けています。幸福感、怒り、悲しみ、やる気、不安など、さまざまな感情が私たちの人生を形成しています。脳内のセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンの働きに思いをめぐらせると、なぜそのような感情が現れるのか、なぜそのような症状が出るのか、なぜそのお薬が効果を発揮するのか、正しい理解に近づくことができます。

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