港町の小さな社に、二柱の神が並んで祀られていた。
向かって右には、大きな袋を肩に背負い、手には打ち出の小槌を握ったふくよかな神──大黒天。
その傍ら、左には釣竿を携え、鯛を抱えてほほえむ神──恵比寿。
町の人々は、商売繁盛を願うときも、豊漁や豊作を祈るときも、必ずこの二柱に手を合わせた。
「恵比寿様は、海の恵みをもたらしてくださる」
「大黒様は、大地の実りを守ってくださる」
そう言って、漁師も商人も農夫も、誰もが二柱を兄弟のように思い、信仰していた。
けれども、彼らにはさらに古い物語があった。
大黒天は、遥かインドの地においては、破壊神シヴァの恐ろしき化身──マハーカーラと呼ばれる存在だった。暗黒と破壊の象徴でありながら、日本に渡り、大国主命と結びつくことで姿を変えた。いつしか打ち出の小槌を振るい、五穀豊穣と財を授ける、福々しき笑みの神へと変容していったのである。
一方、恵比寿の前世は、日本の古代神話にその影を宿していた。イザナギの子と伝えられ、あるいは大国主命の子とされる事代主神。その神は海を司り、言葉によって未来を告げる力を持っていた。やがて人々の信仰は、釣竿を携え、大魚を抱いて福を授ける「恵比寿様」の姿へと結晶していった。
異国から来た神と、古来の神の血を引く神。
海と大地を守る二柱は、こうして日本の人々の前で並び立つこととなった。
そして今も、社の前に立つ者は誰もが思うのだ。
──右手に笑う大黒天。左手に微笑む恵比寿。
その二つの微笑みが、日々の暮らしに欠かせぬ「福」の源であるのだと。




