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日の国の法

日の国の法

 ──それが、「日の国の法」だった。

 ノストラダムスの予言詩の一節に、こうある。

 > 「日の国の法と金星の法が競い合う時、時代は終末を迎える」

 長らく人々はこの一句を謎とし、語り継ぐだけで実体には迫れなかった。だが、その答えは意外なほど身近な、しかし誰もが気づかぬ深遠の場所に眠っていた。

 それは、はるか太古──天照大神がこの地に授けたとされる秘儀、「息吹き永世の法」。

 私は若き修行の身であった頃、一度だけその法の一端に触れたことがある。だが、当時の私は未熟で、それをただの古神道の儀式としか見做せなかった。まるで使い古された型、形骸化した風習。心に残ることもなく、やがてその記憶は私の内奥からも消え去った。

 ──すべては、あの日まで。

 クンダリニーが突如として目を覚ましたあの瞬間、世界は一変した。

 天から雷鳴が落ちたかのような衝撃。呼吸をするたび、胸の奥に氷の刃が突き刺さるような寒気が走り、次の瞬間には脊髄の奥底から噴き出す熾火のような熱が、私を焼き尽くしていく。

 息を吸うごとに冷え、吐くごとに灼ける。天地の極が私の内に出現し、せめぎ合っていた。

 「あ……ッ!」

 思わず叫び声を上げた。細胞一つ一つが引き裂かれるような感覚──だが、それは恐怖と同時に、どこか懐かしくもあった。まるで忘れ去られた祖先の記憶が、血と骨を通して呼び戻されてくるかのように。

 そして、悟った。

 この呼吸こそが、「息吹き永世の法」だったのだ。

 それは単なる技ではなかった。肺と心臓は極限まで鍛えられ、血流は清らかに循環し、肉体はまるで神の器のように変貌する。精神は深い静寂に包まれ、意識は透き通った光に満たされる。定(じょう)に入り、極みに至れば、人は神と一体となり、三百年の寿命すら得られる──古の記述にそう記されていたことを、私は思い出した。

 私は再びこの法を追い始めた。

 古代神道の行法に、クンダリニー・ヨーガのチャクラ理論を融合させた新たなる修法。言葉では到底語り尽くせぬ精妙な秘術。誤れば命すら落とす、諸刃の剣。

 ──だが、それでも、私は願ってやまない。

 この国に、再び神の息吹が蘇ることを。

 失われた「日の国の法」が、再び時代を照らすその日を。

無能勝明王

 

無能勝明王—煩悩を断つ怒りの化身

青き憤怒の王

古の時代、深遠なる山奥にそびえる密教の堂。そこに秘かに祀られる神があった。

無能勝明王(むのうしょうみょうおう)——彼は大日如来の教えを護る存在であり、釈迦如来の憤怒の化身とも伝えられる。彼の姿は青黒く、四つの顔を持ち、逆立った髪は炎のごとく燃え盛る。四本の腕には鉞斧(まさかり)、三叉戟(さんさげき)を握りしめ、煩悩と邪悪を打ち砕く力を示している。

堂内には重々しい空気が満ち、灯された火が彼の鋭い眼光を照らしていた。その瞳の奥には、すべてを見通す智慧と、煩悩を断ち切る憤怒が宿っている。

夜が深まり、ひとりの修行僧が堂へと足を踏み入れた。彼の名は慧厳(えごん)。煩悩にまみれた己を戒めるため、この地へと導かれたのだった。

「無能勝明王よ……私の心の迷いを断ち切ってくださるのですか?」

慧厳は、仏像の前で跪き、祈るように問いかけた。すると、堂内に響くような低い声が聞こえた。

「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ……」

それは真言。無能勝明王の声なのか、それとも彼を囲む密なる力の響きなのか。慧厳は息を呑み、目を閉じた。四魔を滅する力

無能勝明王は、かつて釈迦如来が菩提樹の下で悟りを開いたとき、四魔——五蘊魔(ごうんま)、煩悩魔(ぼんのうま)、死魔(しま)、天魔(てんま)を滅ぼすために現れたと伝えられている。その怒りは純粋なるものであり、ただ破壊するだけでなく、衆生の迷いを断ち切るためにある。

慧厳の心にふと、一つの記憶が蘇った。

——過去、彼は執着に囚われていた。名誉、欲望、恐れ……それらに縛られ、悟りを求めながらも迷い続けていた。しかし今、無能勝明王の前に立ち、すべての迷いが炎に包まれていくように感じた。

その時、堂内にまばゆい青い光が広がった。

慧厳は目を開ける。そこには四面四臂の無能勝明王が立っていた。鋭く光る眼差し、天空を裂くような怒気——しかし、その怒りの中には、限りない慈悲が宿っていた。

「迷うな。恐れるな。己の心を見極めよ。」

慧厳の胸に鋭い衝撃が走る。彼はゆっくりと頭を下げ、深く息を吸った。

「……私は、もう迷いません。」

その瞬間、無能勝明王の姿は消え、再び堂内は静寂に包まれた。慧厳の心には、かつてないほどの静けさと決意が満ちていた。

オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ。

彼は心の中で真言を唱え、堂を後にした

 

 

 

 

無能勝明王—煩悩を断つ怒りの化身
Muno Sho Myo-O—The Wrathful King Who Cuts Through Delusions

霧深き山の堂 炎に揺れる影
青き瞳は見据える 迷いし魂を
四つの腕が振るうは 煩悩断つ刃
響き渡る真言が 闇を切り裂く

オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ
燃ゆる怒りは 慈悲の誓い
恐れを捨てよ 迷いを絶て
青き光が 道を示す

 

 

In the temple shrouded in mist, shadows dance in flame,
Piercing blue eyes gaze upon lost and wandering souls.
Four mighty arms wield the blades that sever desire,
A sacred mantra echoes, slicing through the dark.

On Korokoro Sendari Matogi Sowaka,
This burning wrath is a vow of compassion.
Cast away fear, break free from illusion,
The azure light will guide your way.

 

求聞持聡明法の秘密

求聞持聡明法の秘密

そのときだった。
頭の奥、深部からかすかな音が聞こえてきた。——音響だ。
それは耳で聞くというより、脳の底で鳴っているような、まるで大地の下から伝わる地鳴りのようだった。

私はおずおずと、再びあの求聞持の修法に身をゆだねた。
前回、頭を貫いたあの電撃のような痛みが再び走るのではないかという恐れが、どこかに残っていた。
おっかなびっくりとでも言うべき慎重さで手印を組み、呼吸を合わせてゆく。

だが——今回は、違った。
痛みはまったくなかった。
ただ、静かに、深く、心の奥底に明星がふたたびまたたいた。

私の脳に、何かが起きている。
それは確信だった。
では、その「何か」とは一体何か? 私は自問した。

それは、ひとつの化学的ショックだったのだ。
私の脳の中枢、間脳の奥深く、「視床下部」で変化が起きていた。
そう、すべての鍵は、この視床下部にあったのだ。

これこそが——秘密の原点。

私が以前の章で、内分泌腺の構造について説明し、図まで用いたのは、このことを明らかにするためだった。
専門家たちには、素人の暴挙に見えたかもしれない。
だが、私は臆することなく、それを書いた。
なぜなら、真実を知ってほしかったからだ。

視床下部こそが、すべての内分泌腺を統べる司令塔。
そしてここが、古代ヨーガが語ってきた「プラーマ・ランドラ(梵の座)」であり、
すなわち——サハスラーラ・チャクラなのだ。

世の多くのヨーガ指導者たちは、それを「松果体」であると語ってきた。
だが、それは錯覚だった。
たしかに松果体は視床下部の近くにあり、重要な役割を果たす。
だが、本質はそこではない。
真のサハスラーラ・チャクラは——視床下部なのだ。

この視床下部は、下垂体系を通じてすべての内分泌器官を制御している。
制御の手段は——神経。
ゆえに、この一点には重要な神経線維が無数に集まっている。

私は、古代ヨーガの秘術のなかから、この視床下部を活性化させるための特殊なムドラーとポーズを創案した。
それにより、強い物理的圧力をここにかけ、さらに同時に、強烈な念力を集中したのだ。
百日間、私はひたすらこの一点に、肉体と精神の両面からエネルギーを注ぎ込んだ。

その結果——視床下部に宿る神経のうち、いくつかが目覚めはじめた。

この現象は、チベット密教に限られるものではない。
すべての宗教が最終的に求める究極の境地——至上なる領域に至るためには、
肉体、精神、そして霊性の三つの方法が、必ず必要であると私は確信している。

しかし、それだけでは——足りない。

足りなかったものがあった。
それは、**ジャパス(念誦)**という練行である。

声に出して唱えるのではない。
心の奥で、真言を繰り返し繰り返し、千度、万度、百万度、唱えるのだ。
その響きが、脳髄を満たすとき、視床下部の奥底が震え、真の明星が灯る。

それこそが——求聞持聡明法の核心であり、
この世のあらゆる秘法の奥義であったのだ。

求聞持法の九種の印明。
古代ヨーガに伝わる秘奥の呼吸法。
さらに、それらを超えて私自身が創り上げた手印とポーズ。

それら三つの術が、一つの流れとなって私の肉体と脳髄を変容させつつあった。
チャクラの開発も、順調に進んでいた。

「機は熟しつつある」
——私の六感が、そう告げていた。

まどろみのような感覚が全身を包む。
だが、それは眠りではなかった。
痺れ。
めまいに似た失心の予兆。
そして、我を忘れた一瞬——その刹那。

私は、声をあげていた。

「うあっ……!」

脳髄の一角に、電流が走った。
稲妻だ。まるで落雷。
目の前を、紫の閃光が駆け抜けた。
次の瞬間——

視界が、暗転した。

真っ黒だ。
フラッシュの残像のような黒。
「失明したのか——?」
その言葉が、脳裡をよぎったそのときだった。

頭の奥。
遥か内奥の深みに、ぽっかりと灯がともったのだ。

かすかに、ゆっくりと——脈と同じリズムでまたたいている。
それは、かつて山中に籠り、暁の空に見上げたあの明星に似ていた。
冷たく、黄ばみがかった白。

「……これだ」

私は立ち上がり、力いっぱい叫んだ。

「これが——明星だったのか!」

あのとき山で見上げた光は、外にではなく、私の中にあったのだ。
私は、ついにその秘密を発見したのだった。