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第四章 ブ(bu)の封印

十八の手──准胝

 

東の果てにあると伝えられる「火の谷」──
そこには、かつて天界より堕ちた者が封じられていた。

シィヤは炎に包まれたその地へと足を踏み入れた。
盲目であるはずの彼女の足取りは、なぜか迷いがない。
まるで、見えぬ何かに導かれているかのように。

**

火の谷の入り口には、巨大な石柱がそびえ立っていた。
その柱には、古代語でこう刻まれている。

「ここに慈悲の種子眠るも、慈悲なき者 入るを許さず」

シィヤは手をかざし、静かに呟いた。

「慈悲とは、他者を許すこと……ではなく、共に傷つく覚悟」

その言葉に呼応するように、石柱がひとりでに割れ、炎の回廊が現れた。

彼女の試練が、始まる。

**

谷の奥、紅蓮の空のもとに立つのは、かつて天界で美と力を誇った天人──
だが今はその身を焼き、闇の契りを結んだ存在。名はラクシャーサ。

「……誰だ? この谷に入るとは」

「わたしは、シィヤ。准胝の導きにより、この地に来ました」

「チュンディーだと? ならば見せてみろ。慈悲とは、ただの偽善ではないと」

ラクシャーサは燃える剣を抜き、シィヤに向かって振り下ろす。
だがその瞬間、彼女はその刃を恐れもせずに抱きしめた。
炎が身を焦がす。それでも彼女は叫んだ。

「あなたの苦しみを、わたしが引き受ける!」

ラクシャーサの剣が止まった。
その目に宿っていた狂気が、ゆっくりと和らいでいく。

**

やがて、炎の地に蓮の光が咲いた。
空に浮かぶ十八の手──准胝の幻影が現れ、言葉を告げる。

「第一の種子、汝の内に芽吹け」

シィヤの胸に宿る黒い印が、今度は柔らかな金に染まる。
それが、慈悲の種子の証だった。

**

ラクシャーサは沈黙の中に膝をつき、目を閉じた。

「……我は敗れたのではない。許されたのだな」

「苦しみの中にある者を、敵とは呼ばない」

シィヤはそう答え、炎の谷を後にする。

そして、次の地へ──
そこには智慧の種子を守る、無知と執着に囚われた古き王が待ち受けている。

**

准胝仏母の声が、静かに響いた。

「七つのブ(bu)、すべてが揃う時、曼荼羅は再び回転を始める」

だがその背後で、もうひとつの力──
曼荼羅を断ち切らんとする「虚無の意志」が、密かに胎動を始めていた。

この文章をの作詩ください。
歌詞はイントロ4行、サビ4行してください

 

十八の手──准胝 Eighteen Hands — Cundi

十八の手──准胝
Eighteen Hands — Cundi

 

炎の谷に咲く、ひとひらの蓮
見えぬ光が、闇を抱きしめる
剣を抱いた、あの日の声が
今も胸で、燃えている

慈悲とは、共に堕ちる勇気
痛みを抱きしめて、なお歩く者
封じられしブ(bu)が、今 解き放たれ
曼荼羅の輪が、静かに廻る

 

A single lotus blooms in the valley of flame
Unseen light embracing the shadows’ name
The voice that held the burning blade
Still echoes deep where memories stayed

Compassion is the courage to fall together
To walk through pain, still holding one another
The sealed Bu is breaking free at last
And the mandala turns, its silence vast

 

 

文殊の知慧(ちえ) Wisdom of Manjushri

文殊の知慧(ちえ)
Wisdom of Manjushri

静けき山の寺に立ち
獅子に座す菩薩のまなざし
剣は迷いを裂き、巻は道を示す
心の奥に灯る微かな光

オン・アラハシャ・ノウ 響け空へ
迷いの霧よ、今こそ晴れよ
我が胸に芽吹く知慧の種
文殊の光よ、未来を照らせ

In silence I stand at the mountain shrine
Gazing at the Bodhisattva on the lion’s spine
His sword cuts through doubt, the scroll lights the way
A gentle light in my soul begins to sway

On Arahasha Nou — let it echo high
Dispel the mist, let illusions die
The seed of wisdom blooms in my heart
O Manjushri’s light, guide my path from the start

 

四つの祈りのほとけ The Four Prayers of the Buddhas

四つの祈りのほとけ
The Four Prayers of the Buddhas

 

雨に濡れる古の祠(ほこら)
静けさの中に響く声
ひとつずつ灯る仏の光
心に沁みる祈りのかたち

オン・コロコロ 癒しの風よ
オン・シャレイ 迷いを越えて
オン・マカキャラヤ 豊かなる笑み
オン・マカラギャ 愛の火をともせ

An ancient shrine touched by rain,
A sacred voice in silent air,
One by one, the Buddhas shine,
Each prayer a light within the heart.

On Korokoro — wind of healing,
On Sharei — beyond all doubt,
On Makakyaraya — smile of blessing,
On Makaragya — ignite the flame of love.

 

四つの祈りのほとけ

四つの祈りのほとけ

かすかな雨が降る夕暮れ、彼はふと立ち寄った山裾の古びた祠に足を止めた。祠の中には、時を超えて佇む四体の仏尊が、静かにその姿を見せていた。

最初に目に入ったのは、穏やかなまなざしで佇む薬師如来だった。
瑠璃色の体は雨の光を受けて淡く輝き、まるで万病を癒す力がそこから放たれているかのようだった。
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ…」
老僧の声がどこからか響く。
――健康長寿、安産、そして何よりも、眼の病に効くと伝わるこの真言。
旅の疲れに沈んでいた彼の心に、微かな癒しの風が吹いた。

その隣には、柔和な面差しの准胝観音が立っていた。
腕は十八本に広がり、すべての衆生を救わんとする母のような慈愛をたたえていた。
「オン・シャレイ・シュレイ・ジュンテイ・ソワカ…」
その真言が響いた瞬間、彼の胸にあった迷いが、不思議と和らいでいった。
すべてを包み込むような力に、彼はただ手を合わせるしかなかった。

三尊目は、陽気な笑みをたたえた大黒天
米俵に乗り、打ち出の小槌を握るその姿は、どこか人間くさく、親しみに満ちていた。
「オン・マカキャラヤ・ソワカ」
その響きは、田畑の実り、子孫の繁栄、商売の繁盛、人生の飛躍を祈る声。
彼はふと、遠くにいる家族の顔を思い出し、胸の奥に温かな希望が灯るのを感じた。

最後に立っていたのは、烈火のような情熱をたたえる愛染明王
燃えるような紅蓮の姿に、思わずたじろぐも、そこには確かな守りの意志があった。
「オン・マカラギャ・バザラシュニシャ・バザラ・サトバ・ジャク・ウン・バン・コク…」
その長く重い響きは、愛と絆、出会いと成就、そして命を守る強い祈りだった。
今まで誰かを深く想うことを恐れていた彼の心に、何かが芽生え始めた。

雨は上がり、空に淡い光が差し込む。
彼はゆっくりと立ち上がり、それぞれの仏にもう一度礼をした。
そして静かに呟いた。

「すべての祈りが、誰かの光となりますように――」