では続けて――
第三章 正語 ―― 言葉が現実を形づくる
– 第二節:沈黙の修行 –
蒼は境内の小さな石庭に座り、目を閉じていた。
そこは風の音、鳥のさえずり、木の葉の擦れる音だけが響く。
彼の心は、さまざまな言葉の波に揉まれていた。
凌山が静かに近づき、蒼の隣に腰を下ろす。
「言葉を扱う者は、沈黙を知らねばならぬ」
「沈黙……ですか?」
「そうじゃ。言葉が持つ力は強い。
それゆえに、言葉に溺れる者は多い。
沈黙は、言葉の海に浮かぶ小舟のようなもの。
波に呑まれぬために、沈黙を知るのだ」
蒼はゆっくりと目を開け、問い返した。
「でも、沈黙って寂しいし、つらい気もします」
「それは、心が騒がしい証拠じゃ。
沈黙は“何も言わない”ことではない。
心の中のざわめきを鎮め、
言葉が芽吹く準備をすることなのじゃよ」
凌山は小さな鐘を打ち鳴らし、静かな音が庭に広がった。
「沈黙の修行は、自らの内側に耳を澄ます時間。
言葉に頼らぬ意思を育て、
無用な言葉を生まぬようにするのじゃ」
蒼は深く息を吸い、呼吸を数え始める。
「一、二、三……」
「呼吸に意識を向けよ。
今この瞬間だけに心を置くのじゃ」
時がゆっくりと流れた。
最初は心がざわつき、落ち着かず、雑念が押し寄せた。
「何度も言葉が浮かんできて、止まりません」
「それでよい。
浮かんでは消える波をただ見守るのだ。
波を抑えようとすれば、逆に乱れる。
自然に流すのじゃ」
やがて、蒼の呼吸は穏やかになり、胸のざわめきが静まった。
「……なんだか、静かな空が広がっていくみたいです」
「そう、沈黙は外の静けさより、心の静けさじゃ。
そこから、本当の言葉が生まれるのじゃよ」
凌山は立ち上がり、蒼に微笑みかけた。
「沈黙の修行は続けることが大切じゃ。
言葉に頼らぬ強さを、少しずつ積み重ねるのじゃ」
蒼は頷いた。
自分の中に、まだ見ぬ“真の言葉”が芽吹くのを待ちながら。
【第三章「正語」第二節 完】
(※つづけて「第三節:言葉の祈り」へ進むことができます)
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