「輪転生連想の呼吸」
深い森に抱かれた山中の庵。その一室に、若き修行者レンは静かに膝をついていた。窓から差し込む光が、畳に淡く揺れている。
「レン、よく来たな。今夜から、おまえに“輪転生連想の呼吸”を授けよう。」
師である蒼玄(そうげん)は、いつもと変わらぬ静けさでそう言った。だが、その声の奥には、秘められた深淵の響きがあった。
「四つの呼吸。いずれも、魂の記憶を揺さぶり、輪廻の彼方に通じる息だ。いいか、一つずつ伝える。」
師は焚火の音に重ねるように、語り始めた。
「一つ目は、長出入息呼吸法(ちょうしゅつにゅうそく)。」
レンの隣で、師がゆっくりと息を吐いた。それは、まるで風が草原を撫でるような静けさだった。
「出す息、入れる息。その両方を、できる限り細く、長く、深く。ひと息で二十秒、いや、三十秒、一分にも及ぶこともある。呼吸の波に、己の心を沈めよ。息が細くなるほど、記憶が浮かび上がる。」
「二つ目は、長出息呼吸法。」
師は深く息を吸い、そして、ふたたび静かに――だが驚くほど長く、息を吐き続けた。
「この法では、吐く息だけに意識を集める。吸う息は自然に任せよ。ただ、吐く。細く、細く、ひたすらに長く。過去の因縁が、吐く息に溶けて流れてゆくのを、感じてみよ。」
「三つ目は、反式(はんしき)呼吸法。」
今度は、師の腹に意識が集まった。
「ふつうの呼吸とは、逆だ。吸うときには腹を引っ込め、吐くときにはふくらませる。これにより、身体の内側――とくに“下丹田”が活性化される。天地を逆に観るようなものだ。錯覚が覚醒を促す。」
レンは驚きながらも、師の呼吸に同調しようと腹を動かした。
「四つ目。これが“火の呼吸法”、強短息呼吸法(きょうたんそく)だ。」
師は右の鼻を指で閉じ、左の鼻で鋭く、短く、何度も連続して息を出し入れした。空気が震え、炎が揺らぐようだった。
「鼻孔を片方ふさぎ、もう片方で、強く短く息を繰り返す。まるで火花のような呼吸だ。魂を燃やし、無意識を突き破る。激しさの中に、真の静寂がある。」
すべての説明を終えると、蒼玄は目を閉じた。
「レン、この四つの呼吸を極めたとき、おまえは“輪転生”の核心に触れるだろう。己が何者であり、いずこへ向かうかを、息の中で知るのだ。」
その夜、庵の外では風が止み、星々が息を潜めていた。レンは静かに座し、初めての長い息をゆっくりと吐き始めた。
――呼吸とともに、彼の旅が始まった。




