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須陀洹 ― 流れに入る者

須陀洹 ― 流れに入る者

 

の夜 霧は深く
杉の風 庵を巡る
息を観れば 闇はほどけ
見えぬ川が 流れはじめる
Namosattanan
sanmyaksanmodaktinan
taniyata
on shaley shurei juntei sowaka

長い道を 歩いてきた
怒りの影 欲の影
習気の縄を ほどきながら
静かな門を くぐってきた
師の言葉が 胸に灯る
「息を観よ そこに道がある」
深い闇の その奥に
まだ知らぬ光が 眠っている

息は細く 風のように
心は澄み 水のよう
過去も未来も 遠ざかり
ただ今だけが 残ってゆく
そのとき 胸の奥で
小さな灯が ひらいた
誰も知らない
静かな門が

流れに入る者よ
恐れることはない
仏の川は 静かに
すべてを運んでゆく
戻らぬ道を 歩みはじめ
闇の岸辺を 越えてゆく
須陀洹の光 胸に灯し
解脱の海へ 流れてゆく

息は消え
心は空
身体も
思いも
ただ
静寂

そのとき
見えない川が
わたしを
運びはじめた

流れよ 流れよ
仏の川よ
迷いの岸を
遠く離れ

怒りも
欲も
影も消えて
ただ光だけが
残る
須陀洹
須陀洹
聖なる流れに
今 入る

山の夜は 静まり
杉の風 空を渡る
庵の灯は 小さく揺れ
ひとりの修行者が 目を開く
川は見えない
だが確かに
流れている。

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