阿弥陀如来
アミターバ
命あるものすべてを救うべく誓いを立て、極楽浄土に導く
――西方に灯る、無量の光――
西の空が、ゆっくりと朱に染まりはじめるころ、老人は静かに手を合わせていた。
「南無阿弥陀仏……」
その声は小さく、しかしどこまでも澄んでいた。
彼の胸の奥には、いつも一つの光があった。
それは太陽のように燃え上がる光ではない。
夜の闇をやわらかく包み込む、やさしい光――
それが 阿弥陀如来、
梵名を アミターバ という仏の光であった。
はるか西方、十万億の仏土をこえた先に、
黄金の蓮が咲き誇る国があるという。
風は甘く、鳥は法をさえずり、
水は七宝の池を静かに満たしている。
そこは極楽浄土。
阿弥陀如来が教主として衆生を迎え入れる、
限りない安らぎの国である。
阿弥陀如来は、はるかな昔、法蔵菩薩であったという。
世の苦しみを見つめ、こう誓った。
――もし私が仏となるとき、
名を呼ぶすべての者を、必ずこの国に迎えよう。
罪の軽重を問わず、善悪を選ばず、
ただ一心に名を称える者を、決して見捨てはしない。
それが四十八の大願。
人々はそれを「他力の誓い」と呼んだ。
老人は若いころ、多くの過ちを重ねた。
怒りにまかせて言葉を投げ、
大切な人を失ったこともあった。
「私のような者でも……」
その問いに応えるように、
夕闇の向こうから、やわらかな光が差し込む。
阿弥陀如来は装飾を持たない。
王冠も宝石もない。
ただ静かな法衣に身を包み、
来迎印を結び、衆生を迎える姿。
その指先は、恐れるなと語り、
願いは必ずかなうと約束する。
限りない寿命――無量寿。
限りない光――無量光。
光は罪を責めず、
命は過去を問わない。
ある夜、老人は夢を見た。
紫雲が西空にたなびき、
金色の蓮がひらく。
その中央に立つのは、阿弥陀如来。
静かなまなざしで、ただ一人の名を呼ぶ。
「来なさい。」
声は響かず、しかし心に満ちた。
それは仏々相念――
仏と仏が、言葉を超えて通じ合う力。
老人の胸に、涙があふれた。
恐れはなかった。
ただ、深い安らぎがあった。
朝。
目覚めた彼は、いつものように手を合わせる。
「南無阿弥陀仏。」
それは死後の願いだけではない。
今日を生きる力でもあった。
極楽往生は未来の約束。
現世安穏は、いまこの瞬間の恵み。
西の空は、まだ青い。
けれどその向こうに、
無量の光がたしかに灯っている。
阿弥陀如来の誓いは、
今もなお、静かに世界を包んでいるのである。




