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優婆塞

 

優婆塞

 

その日、迦毘羅衛国の空は、どこか柔らかい光を帯びていた。
ニグローダの林――バニヤンの巨樹が幾重にも枝を垂らし、静かな影をつくるその園の奥に、ひとつの精舎があった。風はほとんど音を立てず、葉のざわめきだけが、時の流れをそっと知らせていた。

そこに、お釈迦さまはおられた。
遠く離れた異国の聖地ではない。ここは、かつて王子シッダールタとして過ごした故郷、カピラヴァットゥ。幼き日々の記憶が眠るこの地で、仏は今、静かに人々を迎えていた。
やがて林の奥から、数人の在家信者を伴った一人の男が現れた。
その名はマハーナーマ。釈尊の従兄弟にあたり、在家の弟子として深く教えを信じる人物であった。

彼は仏の前に進み出ると、両膝をつき、深く頭を垂れ、仏足に礼拝した。やがて身を起こし、慎み深く、しかし確かな声で問いを投げかけた。
「世尊。――優婆塞とは、いかなる人に対して名づけられるものなのでしょうか。」
その問いは、ただの言葉の意味を尋ねるものではなかった。
優婆塞――ウパーサカ。

それは在家の男性信者を指す言葉であり、女性であれば優婆夷、ウパーシカーと呼ばれる。そんなことは、マハーナーマほどの人であれば、当然、知っていた。
だが彼は、あえて問うたのだ。
それは、名の背後にある「生き方」を問うためであり、在家にあって仏の弟子として生きるとは、いかなる心構えをもつことなのか――その核心を、あらためて仏の口から聞きたかったからであった。

林の風は止まり、鳥の声も遠のいたように思えた。
すべてが静まり、ただ仏の沈黙だけが、重く、しかし慈しみ深く、場を包んでいた。
その沈黙の中にこそ、マハーナーマの問いの深さが、すでに答えとして響いていたのである。

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