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チャクラが生む奇蹟 ― クンダリニーの書

チャクラが生む奇蹟 ― クンダリニーの書

霧の山中。
夜明け前の静寂のなかで、炎のような呼吸を繰り返す青年がいた。
その傍らで、老いた導師が低くつぶやいた。

「――クンダリニー・ヨーガは、三千年の眠りを越えて、なお燃え続けている火なのだ」

青年は目を閉じ、師の声に耳を澄ませた。

「人の身のうちには、七つの泉がある。古の聖者たちはそれを“チャクラ”と呼んだ。
それは、肉の中に潜む力の源泉。覚醒すれば、常人には見えぬ力が流れはじめる」

師は掌を胸にあてた。
「チャクラとは“輪”ではない。回転する“状態”そのものだ。
力が生じた瞬間、波紋のように放射する――それが“チャクラ”の真意だ。
それは物質ではなく、力の光――“か”の状態。
充実すれば、やがて光を帯び、色を発し、魂の花弁のように輝くのだ」

師は静かに息を吸い込み、続けた。

「だが、この神秘の源は今では解剖学でも明かされている。
チャクラのすべては、内分泌腺――すなわち生命を司る腺の座に一致している。
ゆえに、ヨーガとは幻想ではなく、生理と霊性の合一だ」

青年の胸に、微かな熱が灯った。

第一の輪 ― ムーラーダーラ

「第一のチャクラは、ムーラーダーラ。性腺と腎臓のあたりに眠る」
師の声が地の底の響きのように重く響く。

「これが覚醒すれば、肉体は三倍の力を持ち、病は逃げ、生命は燃え立つ。
だが同時に、強烈な欲望が目覚める。
その炎をオージャス――知恵の光に変えねば、己は焼き尽くされる」

青年は下腹に手を当て、内なる火の揺らめきを感じた。
それは恐ろしくも甘美な、原初の震えだった。

第二の輪 ― スヴァーディシュターナ

「次は副腎。英雄ホルモンの源だ」
師の声は風のように強くなった。

「このチャクラが開くと、人は勇者となる。恐怖を知らぬ者となる。
死すら超え、信念の剣を持つ者となる」

青年の背筋に、炎の柱が昇った。

第三の輪 ― マニプーラ

「へその裏に太陽がある。太陽神経叢――ソーラー・プレクサスだ」

師は青年の腹を指した。

「これが覚めれば、内臓の声を聞くことができる。
胃も肝も腸も、意志ひとつで動く。
己の身体だけでなく、他者の病を癒すことも可能だ。
――“太陽”の名はそのゆえんだ」

青年の中で、何かが輝いた。
無数の光線が臓腑を照らし、体が透明になるような感覚。

第四の輪 ― アナーハタ

「胸に宿るは、愛と共感の力。心臓、肺、胸腺の座」

師は掌を胸に置いた。

「このチャクラが開けば、不可視の光を見る。
赤外線も、紫外線も、風の音も、草の鼓動も――
天地のささやきが聞こえるようになる。
その感覚は天災を予知し、他者の苦しみを知る」

青年の心臓が、ゆるやかに響いた。
それは、宇宙の心拍と重なっていた。

第五の輪 ― ヴィシュッダ

「喉の中心、甲状腺の座。
ここが開けば、霊なる声を聴く」

師の瞳が光った。

「聖なるものの言葉を受けとり、過去の魂とも対話できる。
死者の意識は消えぬ。
この空間に残る波動と同調すれば、その心が語り出すのだ」

青年の耳に、かすかな声が響いた。
それは誰の声とも知れぬ――しかし、懐かしい声だった。

第六の輪 ― アージュニャー

「眉間の奥、脳下垂体の座。
ここに知性が宿る。純粋思考の門だ」

師は弟子を見つめ、低く言った。

「このチャクラが開けば、記憶は消えぬ。
見るもの、聞くものすべてが、光の文字として残る。
思考は言葉を介さず、直に真理をつかむ。
それが“第三の眼”のはたらきだ」

青年の眉間に、蒼白い光がともった。

第七の輪 ― サハスラーラ

そして、師は天を仰いだ。

「頂の光――松果体。
ここが開くとき、人は仏陀の覚醒に至る。
この光は“ムルダ・ジョーティス”、頭の中の光明と呼ばれる」

青年の頭頂が灼けるように熱くなった。
やがて、それは炎ではなく、透明な光となり、
全身がひとつの光の塔に変わった。

その瞬間、師は静かに微笑んだ。

「見よ。チャクラとは、輪ではない。
生命の歌、光の振動だ。
クンダリニーは、それを貫く竜の息。
七つの花は、七つの覚醒。
その果てに――“汝自身が仏陀”であると知るのだ」

青年は深く息を吸い、
闇の中に光の息を吐いた。

――山が、息をしはじめた。

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