胎蔵界の光
夜の寺院の奥、静寂が深く沈む中、青年はひとり曼荼羅の前に立っていた。
その中心には、大日如来の荘厳な姿が光を放ち、空間そのものを柔らかく包み込んでいる。
師から聞いた言葉が胸に蘇る——
「この光は、理の世界だ。すべてを育む母胎のような心、悟りを開いた菩提の心そのものだ。」
青年の目に映る曼荼羅の世界は、金色の雲と光の織りなす胎蔵界そのもの。
そこでは、一切の迷いも恐れも、やさしく抱かれ、静かに育まれてゆく。
彼の隣に置かれた金剛界曼荼羅は、また異なる光を放つ。
理が包む世界に対して、金剛界は鋭く切り拓く知恵の光。
二つの世界は、まるで母の手と師の鋭眼のように、彼を導き、そして試す。
青年は静かに息を整え、口の中で小さな真言を唱えた——
「オン・バザラ・ダト・バン」
胎蔵界の大日如来に帰依する、その声は、曼荼羅の光とひとつになり、彼の心に温かく流れ込む。
理の世界に抱かれ、知の世界を学びながら、青年の魂は少しずつ、光に目覚めていった。




