曼荼羅の旅 — 翔平の歩み
夜の帳が寺院を包む中、翔平はそっと曼荼羅の光の道へ足を踏み入れた。
中央に輝く大日如来の光を目指し、胸の奥で期待と不安が交錯する。
心のどこかで、彼は自分がこの旅で何を得られるのか、まだはっきりとは分かっていなかった。
最初に現れたのは、柔らかな微笑をたたえる観音菩薩だった。
その沈黙は千の川をたたえる湖のようで、翔平の胸の奥にひそむ弱さや痛みを、まるごと受け止める。
翔平は息をのむ。
「誰かに聴いてほしい、でも言えないままの気持ち――」
涙が言葉を持たずに頬を伝い、小さな温もりが胸に芽生えた。
沈黙の中で、翔平は気づく――「他者の声を聴き、共に在ることが、真の慈悲なのだ」と。
次に、不動明王が炎の剣を掲げ、空間を切り裂くように現れた。
光は恐れを映し出し、翔平の心の影を鮮やかに照らす。
過去の失敗、自己嫌悪、未来への不安――閉ざされた胸の奥で震えていたそれらが、剣の光に触れるたび形を変え、支配されない力となっていく。
翔平は小さく息を吸い、揺るぎなき芯を胸に感じる。
そして、初めて一歩を踏み出す勇気を得るのだった。
最後に、曼荼羅の最奥に坐す大日如来が現れる。
その沈黙は宇宙そのものであり、光も影も、時間も空間も溶け合い、境界が消える。
翔平の胸に柔らかな震えが広がり、全身を光が満たす。
「私は、宇宙の一部なのだ」――言葉を超えた確信が存在の隅々まで染み渡る。
孤独も恐怖も消え、ただ在ることの安らぎが心を満たす。
観音の慈悲、不動の光、大日の沈黙――三つの導きが翔平の内面に刻まれ、曼荼羅の旅は静かに頂点を迎えた。
光の中、翔平は初めて、自らが宇宙と一体であることを感じた。
そして、心の奥で芽生えた小さな好奇心が、次の未知への歩みをそっと促していた。




