七つの目覚め ― 修行者トウマの道
霧深き山の庵に、若き修行者トウマは坐っていた。
薪のはぜる音だけが、静けさの底でかすかに響く。
「私は、何を求めているのか……」
彼は目を閉じ、自らの内なる声に耳を澄ませた。
すると、心の奥底から、ある“声”が聞こえてくる。
――今、汝の道を選べ。
そのとき、胸に浮かんだのは、七つの灯火。
それは、**悟りへと至る七つの覚りの支え(覚支)**であった。
一.択法覚支 ― 正しい道を選ぶ
まず浮かんだのは、白く澄んだ光。
それは「択法覚支」、法を選ぶ智慧の輝き。
「これは善か、悪か――この行いは、苦を生むか、滅するか」
トウマは己の行為をひとつひとつ見つめ、心の曇りを洗い流すようにして選び取る。
それは、八正道の始まりでもある“正見”という眼を開く瞬間だった。
二.精進覚支 ― 努力は道となる
選びとった正しき道を、歩まねばならぬ。
闇は囁き、怠惰は足を引っ張る。だがトウマは進んだ。
「精進覚支」――それは炎のような力。
四正断のごとく、悪を断ち、善を育て、なおも育てる。
「今日も、ただ一歩を進めるだけでよい」
彼は、静かにそれを繰り返した。
三.喜覚支 ― 法悦に心が震える
ある日、彼はふと座の中で気づく。
「……ああ、私は、道の中にいる」
突然、胸の奥から湧き上がる喜び。
それは誰かから与えられるものではなく、自らの気づきの中から芽生えた感動だった。
これが「喜覚支」。
修行が進み、正法に触れた心が、自然と震える悦び。
四.軽安覚支 ― 身心の安らぎ
悦びの後に訪れたのは、静けさだった。
体の力が抜け、心の重りが消えていた。
風は優しく頬を撫で、世界がひとつに溶け合うようだった。
「軽安覚支」――それは煩悩を離れ、身と心が軽くなる安らぎ。
彼は深く息を吐き、もう一度、世界を見つめ直した。
五.定覚支 ― 心をひとつに
やがて、トウマの心は一点に集まり始める。
波立つ思考が止み、静けさだけが満ちる。
それは「定覚支」。
瞑想の深まりとともに、彼の意識は集中し、サマーディへと近づいていく。
「私はここに在る。ただ、それだけでよい」
六.捨覚支 ― 手放す智慧
だが、深まる定の中でも、心にはまだ影があった。
「この静けさを保ちたい」「この喜びを失いたくない」
――それもまた、執着である。
彼はそれに気づき、ふっと微笑んだ。
「捨覚支」、すなわち手放す力。偏りのない心。
喜びも悲しみも、ただ通りすぎてゆくものとして見つめた。
七.念覚支 ― すべての根にあるもの
そして彼は思い出す。
最初に学んだこと、最も大切なこと。
それは「念覚支」。
今、ここに心を置き、すべてを見守る力。
気づきがなければ、選ぶことも、進むこともできない。
七つの覚支は、すべてこの「念」から生まれ、念に帰るのだ。
夜が明け、庵の窓から朝日が差し込む。
トウマはそっと立ち上がる。
彼の歩みはまだ続く。だが、その心にはもう――
揺るがぬ静けさと、目覚めの光があった。




