ニルヴァーナの智慧を求めて ― 七科三十七道品の書
風は静かに山の稜線をなぞっていた。谷間にたたずむ古寺、その奥深く――時を越えて閉ざされていた石室の扉が、重々しく開かれた。
中に入ったのは、若き修行僧アーナンダ。彼は、自らの無明を破るため、長い旅を続けてきた者だった。老僧バラモンが、古い巻物を手渡しながら、低く語りかける。
「この経は、世に忘れられし修行の法。ブッダご自身がさとりの階梯として歩まれた、真の道である。」
アーナンダの目が光る。
「それは……大乗の教えとは異なるのですか?」
老僧はうなずいた。
「多くの者が大乗の華やかな説法に心を奪われている。しかし、ブッダの足跡を、最も明確に映しているのは、原始の教典、阿含の経にこそあるのだ。そこに、悟りへ至る七つの法門、三十七の修行項目――すなわち『七科三十七道品』が説かれている。」
「七科……三十七道品?」
老僧は巻物をひらき、ゆっくりと唱える。
「四念住、四正断、四神足、五根、五力、七覚支、八正道……これが七科である。それぞれが、悟りに至るための階梯となり、三十七の具体的な実践項目となる。」
アーナンダは目を閉じた。耳に残るのは、老僧の静かな声。
「この法は、パーリ語の中阿含、キンティ・スッタに明確に記されておる。ブッダが比丘たちに語られたのだ。『我が説く法は、真に悟られしものである。四念住より始まり、八正道に至るこれらを学ばずして、汝らはニルヴァーナを得ることはできぬ』と。」
老僧は、巻物をアーナンダの手に握らせた。
「おまえが求めるのは、神聖なる智慧であろう? ならば、これがそのカリキュラム。七つのシステムにして、三十七の訓練法。心の深奥へと降りてゆけ。そうすれば、おのずと真実の光が現れるであろう。」
寺の外では、黎明の風が雲を払いはじめていた。
アーナンダは、巻物を胸に抱きしめながら、静かに誓った。
「必ずや、この智慧の道を歩みぬく。ニルヴァーナの光が、我が心を照らすその日まで。」




