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「間脳の目をひらくとき」

「間脳の目をひらくとき」

彼は、山深くの庵に籠もっていた。静寂に包まれたその場所では、風が竹林を揺らす音さえ、宇宙の律動のように感じられた。

「これは修行というには、あまりにも…死に近い行為だ」

独りごちる彼の瞳は、深く沈んでいた。それは、ただの精神統一ではない。――大脳辺縁系と新皮質脳を殺す。彼が取り組んでいるのは、そのような異様な鍛錬だった。

人間が動物として生きるために必要とされた情動の座、大脳辺縁系。理性や思考の源とされる新皮質脳。これらを沈黙させなければ、間脳は目覚めない。霊感の中心であり、インスピレーションの泉である“第三の目”が、けっして開かれることはないのだ。

彼はそれを知っていた。

だが、それは単なる否定ではなかった。辺縁系も、新皮質脳も、究極においては生き返る。いや、むしろ、まったく新しい次元で“よみがえる”のだ。霊性によって支えられた超意識の座として――。

「創造の源泉は、間脳にあるのだよ」

ある日、彼の夢の中で現れた老人がそう告げた。白い髭をたくわえ、眼光は虚空の奥を見つめていた。

「そしてその間脳を開発する道が、シャカの遺した教えなのだ」

男は目を覚ますと、ゆっくりと瞑想の座についた。呼吸を整え、意識を深淵へと沈めていく。そう、それはシャカが説いた七科三十七道品――三十七菩提分法とよばれる、成仏への体系だった。

彼はそれを、心の中で「成仏法」と呼んでいた。

それは、七つの領域を順次に超えていく修行であり、三十七の段階を経て、ついに霊性が完成される道である。煩悩を滅し、脳の奥底に隠された意識の扉を叩く旅。

すべての雑念が消え去ったとき、彼の脳裏にふと、ひとつの声が響いた。

「おまえは誰か?」

答えは、まだ霧の中だった。しかし、彼は確かに“何か”が始まったのを感じていた。


 

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