王者の相承
山間の密教僧院に、一人の修行者がひざまずいていた。目を閉じ、心を静める。師である老僧は、彼の前に静かに座していた。
「汝に、法を授ける。」
師の言葉はなかった。ただ、鋭く、深く、弟子の心へと流れ込んでくる何かがあった。言葉を超えた伝達。思念による相承——王者の証し。
その瞬間、弟子は己の心が広がるのを感じた。大地を超え、空を駆け抜け、無限の光の中へと融けていく。これは夢か、現実か。否、もはや分別の境はない。ただ、悟りの閃光が彼の内に炸裂した。
「これが……」
震える唇を噛みしめながら、弟子は天を仰いだ。
師は微笑む。
「それが、思念による王者の相承——最も純粋な伝達の形だ。」
象徴による持明者の相承
月明かりの下、石の庭に数人の修行者が座していた。師は静かに立ち上がり、一枚の曼荼羅を広げる。
「これは何に見える?」
修行者の一人が答えた。「宇宙。」
「いや、違う。」別の者が言う。「これは、心の構造そのものだ。」
師は黙して答えない。ただ、曼荼羅の中央を指差し、静かに鐘を鳴らす。音が空間に広がり、月光の下で曼荼羅の色がわずかに揺らめいた。
その瞬間、ある者は天啓を得たように目を見開いた。「ああ……これは言葉では説明できない……!」
「そうだ。それが象徴による持明者の相承だ。」師は穏やかに頷いた。「象徴は言葉を超えた智慧の鍵だ。心ある者はそれを解き、悟りへと至る。」
耳を通した言葉による人の相承
「師よ、私はまだ何も分かりません……」
若き弟子が頭を垂れた。師は静かに微笑み、焚火を見つめる。
「言葉は、舟のようなものだ。」師は語り始めた。「悟りの岸へと運ぶための舟。だが、岸へ着けば舟は不要となる。」
弟子は目を上げ、師の横顔を見つめた。
「ならば、私はまだ舟の中にいるのですね。」
「そうだ。だが、それでいい。焦ることはない。聞き、考え、悟る。これが耳を通した言葉による相承だ。」
焚火がぱちりと音を立てた。その音すら、何かを伝えようとしているように思えた。
師の言葉が、弟子の心に深く染み入る。言葉が、魂を導く——それが、人の相承だった。




