聖観音の祈り
静寂な山中に佇む古びた堂。その中央には、優しく微笑む聖観音の像が鎮座していた。薄暗い堂内には、かすかな香の匂いが漂い、蝋燭の灯りが静かに揺れている。
その日、一人の旅人が堂を訪れた。疲れ切った足を引きずりながら、彼は観音像の前で膝をついた。
「どうか、私の願いを聞いてください…」
旅人の声は震えていた。彼の顔には深い悲しみが刻まれている。幼い娘が重い病に倒れ、どんな医者も手の施しようがないと言った。頼る者もなく、彼はこの観音堂までたどり着いたのだった。
その時、堂内の灯がふっと揺らいだ。まるで観音が応えるかのように、静かに光が満ちる。
「オン・アロリキヤ・ソワカ…」
旅人は震える声で真言を唱えた。その言葉が堂内に響くたびに、観音像の表情が優しくなるように見えた。
ふと、旅人の目に映ったのは、観音の手に持たれた水瓶と蓮華のつぼみだった。悟りの象徴であるその花が、まるで今にも開こうとしているように感じられた。
旅人は目を閉じ、心から祈った。すると、不思議なことに心が静まり、温かい光に包まれるのを感じた。
やがて彼は立ち上がり、深く一礼すると、堂を後にした。すると、冷たい風の中に、どこか穏やかで優しい気配があった。それはまるで、観音の慈悲が彼を見守っているかのようだった。
家へ戻ると、娘の顔には血色が戻り、安らかに眠っていた。その姿に、旅人は涙を流しながらそっと観音の名を呼んだ。
聖観音は、いつも人々の声を聞き、救いの手を差し伸べているのだ。




