東方の空が薄明るく染まり始める頃、浄瑠璃世界の光が静かに広がっていた。その中心に佇むのは、薬師瑠璃光如来――人々から「薬師如来」と尊ばれる仏様であった。その名は、サンスクリット語で「バイシャジヤグル」とも呼ばれ、病を癒し、苦しみを解き放つ慈悲の象徴として知られていた。
薬師如来は、右手に施無畏印を結び、左手には与願印を結んでいた。その左手の掌には、小さな薬壺が乗せられており、その中にはあらゆる病を癒す妙薬が詰まっていると伝えられていた。その姿は、病に苦しむ者、貧しさに喘ぐ者、心の闇に囚われた者たちに、希望の光を投げかけるかのようだった。
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」
そのご真言は、風に乗って遠くまで響き渡り、聞く者の心に安らぎをもたらした。この真言を唱えることで、病は癒され、心身は浄化され、平和が訪れると信じられていた。人々は、その言葉に救いを求め、薬師如来の名を繰り返し唱えた。
薬師如来は、東方浄瑠璃世界の教主として、十二の大願を立てていた。その願いの一つは、「いかなる病も、いかなる医者も治せないものであっても、薬師如来の名を聞いた者は、必ずその病から解放される」というものだった。その誓願は、人々の深い信仰を集め、仏教が日本に伝えられた初期から、多くの宗派で本尊として祀られていた。
日光菩薩と月光菩薩が脇に控え、十二神将が護法神として守護する中、薬師如来は静かに微笑んでいた。その微笑みは、すべての生きとし生けるものに健康と長寿をもたらすと信じられていた。
ある日のこと、一人の老婆が薬師如来の前に跪いた。彼女は長年、病に苦しみ、医者も薬も効かず、絶望の淵に立たされていた。老婆は涙を浮かべながら、薬師如来の名を唱え、ご真言を繰り返した。
すると、ふと、老婆の体に温かな光が包み込まれた。その光は、彼女の病を少しずつ溶かし、心の重荷を軽くしていった。老婆は驚きと感謝の念に打たれ、薬師如来に深く頭を垂れた。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
その声は、風に乗って浄瑠璃世界に届き、薬師如来の微笑みをさらに深くした。そして、東方の空が再び明るくなり始める頃、老婆は健康を取り戻し、新たな希望を胸に歩み始めたのだった。
薬師如来の慈悲は、今もなお、すべての苦しむ者たちに注がれている。その光は、時を超え、場所を超え、人々の心に安らぎをもたらし続けている。ぬ




