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無能勝明王—煩悩を断つ怒りの化身

第一章 青き憤怒の王

古の時代、深遠なる山奥にそびえる密教の堂。そこに秘かに祀られる神があった。

無能勝明王(むのうしょうみょうおう)——彼は大日如来の教えを護る存在であり、釈迦如来の憤怒の化身とも伝えられる。彼の姿は青黒く、四つの顔を持ち、逆立った髪は炎のごとく燃え盛る。四本の腕には鉞斧(まさかり)、三叉戟(さんさげき)を握りしめ、煩悩と邪悪を打ち砕く力を示している。

堂内には重々しい空気が満ち、灯された火が彼の鋭い眼光を照らしていた。その瞳の奥には、すべてを見通す智慧と、煩悩を断ち切る憤怒が宿っている。

夜が深まり、ひとりの修行僧が堂へと足を踏み入れた。彼の名は慧厳(えごん)。煩悩にまみれた己を戒めるため、この地へと導かれたのだった。

「無能勝明王よ……私の心の迷いを断ち切ってくださるのですか?」

慧厳は、仏像の前で跪き、祈るように問いかけた。すると、堂内に響くような低い声が聞こえた。

オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ……

それは真言。無能勝明王の声なのか、それとも彼を囲む密なる力の響きなのか。慧厳は息を呑み、目を閉じた。

第二章 四魔を滅する力

無能勝明王は、かつて釈迦如来が菩提樹の下で悟りを開いたとき、四魔——五蘊魔(ごうんま)、煩悩魔(ぼんのうま)、死魔(しま)、天魔(てんま)を滅ぼすために現れたと伝えられている。その怒りは純粋なるものであり、ただ破壊するだけでなく、衆生の迷いを断ち切るためにある。

慧厳の心にふと、一つの記憶が蘇った。

——過去、彼は執着に囚われていた。名誉、欲望、恐れ……それらに縛られ、悟りを求めながらも迷い続けていた。しかし今、無能勝明王の前に立ち、すべての迷いが炎に包まれていくように感じた。

その時、堂内にまばゆい青い光が広がった。

慧厳は目を開ける。そこには四面四臂の無能勝明王が立っていた。鋭く光る眼差し、天空を裂くような怒気——しかし、その怒りの中には、限りない慈悲が宿っていた。

迷うな。恐れるな。己の心を見極めよ。

慧厳の胸に鋭い衝撃が走る。彼はゆっくりと頭を下げ、深く息を吸った。

「……私は、もう迷いません。」

その瞬間、無能勝明王の姿は消え、再び堂内は静寂に包まれた。慧厳の心には、かつてないほどの静けさと決意が満ちていた。

オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ。

彼は心の中で真言を唱え、堂を後にした

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