夜の山寺。
弟子は冷たい石畳の上に坐り、師の前で静かに息を整えていた。蝋燭の炎が揺れ、その影が壁に映る。
師は深く瞑目し、やがて重い口を開いた。
「霊性完成の到達点とは、カルマからの超越である」
その響きは、鐘の音のように弟子の胸に落ちた。
「カルマとはなにか……。それは地球の引力のようなものだ。地球上のすべては、その引力から逃れることはできない。同じように、人はみな輪廻のカルマに縛られている。因縁はその網の目であり、人間はその中に繋がれ、存在している。だがな――」
師は蝋燭の火を指で覆い、その瞬間、炎が消えた。
「このカルマと因縁の緊縛から完全に解き放たれたとき、それが霊性完成だ。引力を超えて天空に舞い上がるように、存在の次元が変わるのだ」
弟子は息をのんだ。
「存在とは何か? 究極には“波動”である。人間も、自我も、すべて波のように震える力だ。その波動を変えたとき、人はカルマの波動を越える。反重力の修行、それが霊性の道である」
師は弟子の額を見つめる。
「人間という存在の波動を変える原点は、間脳の視床下部にある。ここが開かれたとき、全身の波動が変わり、ふつうの人間とは異なる存在へと転ずる。カルマに支配されぬ者、高度な霊的存在だ。その証がオーラ――特異な光である。発光源は間脳そのものだ」
蝋燭を再び灯すと、炎が師の横顔を赤く照らした。
「だが勘違いしてはならぬ。瞑想は必要だ。心を安定させ、集中し、新たな次元へと導く。しかし……」
師の声は鋭くなった。
「瞑想だけではカルマは越えられぬ。大脳辺縁系と新皮質しか働かない瞑想では、間脳は開かぬのだ。間脳を呼び覚ます瞑想こそ、霊光を生む道である」
弟子は頭を垂れた。
その額に、かすかに温かな光が宿り始めていた。




