師の眼、弟子の心
「まず、何よりも大切なのは、真に霊性を開顕したグルを見つけることだ」
空靖は炉の火をじっと見つめながら、低く静かな声で言った。
「そのグルに受け入れてもらえたならば、この修行は八分どおり成功したと言ってよいほどだ。それほどに重要であり、また困難なことでもある」
遼は膝を正し、息を殺すようにして師の言葉に耳を傾けていた。
「弟子にとって、グルはこの世のいかなるものよりも尊い。なぜなら、人は無限の昔から輪廻をさまよい続け、今もなお苦しみの旅を歩んでいる。幾度の生の中で、どれほど多くの仏陀が鎖を断ち切るよう呼びかけてくださったことか。だが、煩悩と悪業に曇った心は、その声に応えることができなかった」
空靖はゆっくりと遼に視線を移した。
「だが今ここに、無量の慈悲をもって導く師との縁が結ばれた。グルこそ仏陀そのものなのだ。その憧憬の心をもって従えば、グルは全身全霊で弟子を導いてくれる。グルは弟子と仏陀とを結ぶ水路であり、その水路を通じて仏陀の霊性と力が流れ込むのだ。グルなくして真の霊性開顕はない」
炎がぱちりと爆ぜ、二人の間に一瞬光が走った。
「インドの聖者ラーマナ・マハリシをご存じだろう」
空靖は思い出すように語りだした。
「彼は弟子を受け入れるとき、『凝視の秘儀』を用いた。彼の眼差しは相手の心を貫き、雑念を断ち切ったという。ある者は、その瞬間、電流が体を走ったように感じたそうだ。それこそが、グルからの霊的パワーの感応なのだ」
遼の背筋に、見えない震えが走った。
「最後の仕上げはいつもグルからの感応である。そしてそれは、師と弟子が心を一つに溶け合わせたときにのみ成り立つ」
空靖は静かに立ち上がり、遼の前に歩み寄った。
「わたしはかつて、『受け入れの秘儀』を凝視によって行うと決めていた。しかし、長い間、その資格ある弟子がいなかった。だがようやく、お前のような者が現れた」
遼は息を呑んだ。師の瞳が炎のように揺らめき、同時に湖のように澄み切っている。
「これは仏教の入門得度に等しい儀式だ。これからは、わたしが常にお前を心にかけ、霊障を見抜き、指導を与える。そして――」
空靖の右手が静かに遼の眉間へとかざされた。
「アージュニャー・チャクラに触れ、潜在意識へと直接、言葉を刻もう。これは思念による王者の相承の一部だ」
遼は目を閉じた。次の瞬間、光が額を貫き、心の奥底に何かが流れ込んでくるのを感じた。
それは師の言葉ではなく、まぎれもない霊の声だった。
遼が目を閉じた瞬間、闇の中に火花のような光が弾けた。
それは小さな星屑となって額から胸へと降りていき、やがて全身を包み込む。
――自分は今、どこにいるのか。
気づけば、遼は見知らぬ大地に立っていた。足もとの大地は透きとおる水晶のようで、踏みしめるたびに青い光が波紋のように広がる。遠くには黄金の山脈がそびえ、その峰々からは仏陀の声のような響きが、風に乗って流れてくる。
「遼よ」
その声は空靖のものに似ていた。だが同時に、幾千もの仏陀が一斉に語りかけているようでもある。
胸の奥で何かが砕け、遼は涙があふれるのを感じた。長い輪廻の旅の重みが、その声の前で崩れ落ちていく。
空を見上げると、そこにはひとつの光の眼があった。
まるで宇宙そのものが凝視しているかのように、その眼は遼の内奥を突き抜ける。
――ああ、これが師の眼なのか。
遼の心は溶け、恐れも迷いも次々に消えていく。
残ったのはただ一つ、静かな安らぎ。
やがて光は遼の額に集まり、炎の蓮華が咲いた。
その中心からは澄んだ声が響く。
「お前は、もはや孤独ではない」
遼の胸に熱いものが満ちた。
師と仏陀と、自分の魂が一つに結ばれたのだ。
そして遼は悟った。
これこそが「受け入れの秘儀」の真実であると。




