人は、光から来て、光に還る
霊的に目覚めたとき、人々は初めて気づく。
自分たちが、この世界にただ肉体を持って生きる存在ではなく、
見えざる霊的存在と、密やかに、そして深く結ばれているのだと。
その理解は、ひとすじの光のように心を照らし、
迷いの道を歩んでいた足を、そっと新しい方向へ導く。
それは争いではなく、奪い合いでもない。
互いを認め合い、分かち合うという道――
真(まこと)の道である。
やがて、その道を歩む者の顔には、静かな笑みが宿る。
幸福は、遠い未来に待つものではなく、
今この瞬間にも咲き始めているのだと、
誰もが知るようになる。
その朝、遼(りょう)は駅前の広場に立っていた。
同じ風景のはずなのに、どこか色が深く、音が柔らかく響く。
バス停で談笑する学生たちの笑い声が、まるで小川のせせらぎのように耳に届く。
道端の花は、昨日よりも鮮やかに咲いているように見えた。
一歩、足を踏み出すたびに、見知らぬ人と視線が合う。
それは無言の挨拶だった。
「私はここにいる」「あなたも、ここにいる」
ただその事実だけで、胸が温かく満たされる。
遼はふと、数日前までの自分を思い出した。
急ぎ足で歩き、すれ違う人々をただの風景の一部としてしか見なかったあの日々。
今は違う――一人ひとりが、何か大切な物語を抱えて歩いていることが、はっきりと分かる。
その気づきが、まるで透明な灯火のように遼の胸に灯り、
街全体がやわらかな光に包まれていることに気づいた。
広場を抜けた先、日差しのやわらかな歩道の片隅で、
一人の老人が古びたギターを抱えていた。
白い髭が風に揺れ、瞳は子供のように澄んでいる。
遼が足を止めると、老人はゆっくりと弦を弾いた。
曲は知らないはずなのに、なぜか懐かしい。
海の匂いや、夏の夜風、誰かの笑顔――
そんな記憶の断片が、旋律とともに胸にあふれてくる。
歌詞は、短く、ただそれだけだった。
「人は、光から来て、光に還る」
その言葉が、静かに遼の心を打つ。
老人は笑みを浮かべ、歌を終えるとギターを膝に置いた。
「君も、その光のひとつだよ」
その声は、まるでずっと昔から知っていた人に呼びかけられたようで、
遼は返す言葉を探せなかった。
歩道を行き交う人々も足を止め、しばし耳を傾けている。
誰もが、いつもより優しい顔をしていた。
遼は思う――
この街の目覚めは、こうして一人から一人へと、
歌のように受け継がれていくのかもしれない。
次の瞬間、遼は人の流れに押され、視線が外れた。
もう一度振り返ったとき、老人の姿はなかった。
数日後、同じ場所を訪れても、彼に会うことはなかった。
けれども遼の耳には、あの日の歌がまだはっきりと響いていた。
本当の出会いは、相手がそこにいなくなってからも、
自分の中で生き続けるものなのだ――そう気づきながら。




