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明珠の発光 — パドマ・マッガ覚醒の刻(とき)

明珠の発光 — パドマ・マッガ覚醒の刻(とき)

深夜、沈黙に満ちた石の道場に、ただ一人の影が座していた。彼の名はアナンダ。静寂の奥に身を浸すその姿は、もはや人ならぬもののようだった。

蝋燭の灯が、微かに揺れる。その中心で、アナンダは“火の呼吸”を繰り返していた。吸う。吐く。そのたびに、体内の熱が心臓の奥から背柱を駆け上がり、頭蓋に達しては微かな震えと共に消えてゆく。

やがて呼吸は鎮まり、アナンダは眉間へと意識を収束させた。閉じた瞼の裏、アージュニャー・チャクラのあたりに、微かな圧迫と共に現れる気配。彼は心の中で、聖音「オーム・オン」を唱え続けた。

──そのときだった。

頭の内側に、半透明の光球があらわれた。ビー玉より少し小さな、青白い珠。それは最初、眉間の裏側に留まっていたが、しだいに重力を忘れたように浮かび上がり、ゆるやかに頭蓋内を漂いはじめた。

アナンダはその珠を、意識の力で導いた。眼窩の奥、頭の底へ。そしてスシュムナー管に沿って、まるで銀の糸を伝う露のように、珠は下降していく。

やがて、それは体の中心──心臓の裏側に達した。

彼はそこで、再び型語を唱えた。百回。珠はそこにあり、じっと輝きを湛えていた。やがて、球は音もなく、二横指ぶん上へと移され、そこに留まる。

その瞬間だった。珠が、自ら光を放ち始めたのだ。

アナンダの両眼は、まるで自身を裏返すように内側へと旋回し、その光の球と一体になった。魂が光に触れ、眼が光に染まる。

それこそが、秘奥の術──パドマ・マッガの発光であった。

師は言った。「光を見たならば、静かに、何者が現れてもただ見よ。雲でも、花でも、生き物でも、ただ見よ。強いて見ようとしてはならぬ」

珠は光を強め、アナンダの脳内を移動し始めた。アージュニャー・チャクラに戻された珠は、そこから再び動き出す。今度の目的地は──松果体、視床下部。

それは容易なことではなかった。脳内の神経網が、それを阻む。だがアナンダは、己の“道すじ”を信じ、珠を運ぶ。

──その瞬間。

閃光。

白銀の稲妻が、頭蓋を駆け抜けた。視神経が閃いた。すべてが、一瞬で変わった。

思考が、覚醒した。

記憶が、甦った。

泉のように、次々と湧き出す閃き。アナンダの意識は、もはや人のそれではなかった。求聞持聡明法が発動したのだ。これこそが、天才の胎動である。

その夜、誰にも知られず、ひとつの光がこの世界に生まれた。

それは、クンダリニー・ヨーガの秘儀、「パドマ・マッガの覚醒」であった。

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