蛇の火、神足の道
それは夢とも現とも知れぬ深い瞑想の中だった。修行者アシタは、脊椎の奥に潜む“なにか”の気配を感じていた。重く、熱く、蠢くような力。それは、まだ眠っていた。
「クンダリニー——蛇の火。それは尾骶骨の底、ムーラーダーラ・チャクラに三巻き半、とぐろを巻いて眠っている。」
師の声が、かつての記憶の底から蘇る。その蛇は、スヴァヤンブーという聖なる柱に絡まり、スシュムナー管の入口を固く閉ざしていた。
アシタは、深い呼吸とともにムドラーを結び、静かにマントラを唱えた。内なるチャクラが、ひとつ、またひとつと目を覚ましてゆく。火花が散るような感覚とともに、蛇が動いた。
グオォオオ……!
それはまるで、地中のマグマが噴き上がるかのような激しい衝動だった。クンダリニーの目覚めは、覚悟なき者には災厄すらもたらす。だが、アシタは恐れなかった。
「チャクラを開くだけでは足りぬ。四神足の目的は、神力の獲得——すなわち、神の如き意志と行為力を、この世に顕現させることにある。」
彼はそれを知っていた。だからこそ、第二の技法が必要なのだ。
一つ目の技法:エネルギー回路の制御
「チャクラで発生した力を、どこへでも自在に送れるようにせよ。特に、脳へ。」
アシタは意識を一点に集中し、尾骶骨から放たれるクンダリニーの炎を、スシュムナー管に導いた。スシュムナーの両脇には、イダーとピンガラという二本の気道が脈打ち始める。らせん状に絡み合いながら、生命の火は脳幹へと迫った。
二つ目の技法:神経経路の創造と補強
脳の新皮質と視床下部。その間に新たな橋が架けられなければ、力は暴走するだけだ。アシタの肉体は震えた。だが、彼は逃げなかった。細胞が熱を帯び、神経が再編されていくのを、確かに感じていた。
「クンダリニー・ヨーガには、この回路の強化がない。だから四神足法が必要なのだ。」
ただ目覚めさせるのではない。蛇の火を、意志によって制御し、融合させる。各チャクラの力を、一つにまとめ、目的の一点へと集中させる。
これは統合のヨーガであり、進化の仏法である。
アシタの脳内に、白蓮が咲いた。サハスラーラ・チャクラが全開し、全身に金色の光が奔った。古き獣の脳——ワニとウマの脳は、霊性の火に焼かれ、やがて透明な智慧の器に変わってゆく。
その時、空から静かな声が響いた。
「四神足法を統べし者よ、神足通を得て、世を救え。」
アシタは天を仰いだ。そこには、蛇の火と共に昇る、永遠の光があった。




